田舎から上京した友人の話。田舎特有の風習を民謡にしたものだと思う。その友人の地元は海沿いのさびれた漁師町で、そこに昔から伝わっていて、今では口語で歌われている歌があった。
鰯が獲れたら秋刀魚が獲れる
秋刀魚が獲れたら鰤が獲れる
鰤が獲れたら鰹が獲れる
鰹が獲れたら人魚が獲れる
人魚が獲れたら子供が獲れる
子供が獲れたら肉になり
肉になったら鰯が獲れる
というなんだか不思議な歌だった。
友人から聞いたときに気になったのはやはり、魚からいきなり人魚や子供に飛躍する点。だが、友人もよく分からないというので、彼は今度帰省したら祖母に聞いてみると言っていた。
その夏のある晩。帰省していた彼から電話があった。聞いてみると、実は歌には今の子供には伝わっていない2番が。
鰯が獲れぬし秋刀魚も獲れぬ
鰤も獲れぬし鰹も獲れぬ
人魚も獲れぬし子も獲れぬ
こぞ(去年)に獲れたは人魚の子
稚児がその子を食らぶれば
稚児は見事な餌になりて
鰯は町に戻り来る
私は人魚ってなんだと聞いたところ、それは女ばかり生まれる特別な家系のことで、大漁の年に子供が生まれるのだそうだ。そして、純潔が守られた子供は不漁の年に、町の少年と「○交」する。
少年は交わった時点で、人でもない物として海に捧げられるのだそうだ。友人の祖母が子供の頃にはすでにそんな風習もなく、人魚の家系がどこにあるか分からなくなっていた。ただ、友人の家系は女ばかりで入り婿が家を継ぐそうだが。