現代に残る生贄の風習

話の出所は、ちょっとぼかしてしか書けない。信じる信じないは自由です。某県に住んでいるのだが、自称やんごとなき血族の友人がいた。すでに鬼籍に入ってしまったのだが、実に信じがたい話なのだが聞いてほしい。

自称やんごとき血族の友人Aとは、幼稚園のころからの付き合いだった。地元でも名士で、かなりの土地とかなりの資産をもっている友人Aは長男で、ゆくゆくはその家を継ぐだろうと思っていた。高校2年の夏に、進学のことや将来のことで色々と話す機会があった。

友人Aは、にこにこ笑いながら「俺の将来は決まってるから・・・」と言う。あまり裕福でない私はまぁ正直、家が金持ちでいいなぁと思っていた。地元の名士である長男が普通の中高に通って自由に遊んでいたのは不思議だったが、今思うと友人Aの末路をわかっていた親が自由にさせていたのだろうと思う。

高校3年の夏過ぎから、友人Aの様子があらか様におかしくなっていった。自暴自棄というか、何もかもどうでもいいような発言と行動が目に見えて多くなっていた。受験のノイローゼか、年齢的におこる不安定だと思っていたが、実はそうではなかった。

卒業して、見事に私は浪人になり、ぶらぶらろくでもない生活を送っていた。友人Aとは何ヶ月か連絡を取っていなかったが、クリスマス前に突然向こうから連絡があり、ひさしぶりに会うことになった。何ヶ月ぶりあった友人Aの姿は、異様というか異常というか髪は白髪まじりで、頬骨がういて見えるくらいげっそりと痩せていた。たった数ヶ月で、人間の容姿がここまで変わるものかと、ひどく驚いたのを今でも覚えている。

近所の公園で寒い風の吹く中、暖かいコーヒーをすすりながら
私「おー、ひさしぶり!卒業式以来。なにかあったの?」
友人A「ちょっと話を聞いてほしくてな。なにも聞かないで俺の話を聞いてくれ」
私「・・・病気か何かか?」
あまりに変わり果てて、やせ細った友人Aの姿を異様に思った私は自然とそう聞いてしまった。

友人A「・・・いや、違う・・・が関係はある。この話はお前にしか言わない」
そう言うと、友人Aは左手でコートをちらっとめくった。友人Aの右肩から先にあるはずの右腕が見当たらなかった。あまりの衝撃と、予想もしなかった状況に言葉を失っていたら、友人Aがぽつりぽつりと、ある物語を話しだした。

とある公家の当主が、大きく変わる世の中と自らの家系が耐えてしまうのを恐れ、ある神社の神主に相談をした。その神社の神主は、当主の相談に3つの条件を承諾すれば、未来永劫家系と田畑が護れるといった。

その条件とは
1.神主の娘を娶り、神主の血筋も絶やさない
2.代替わりごとに贄を差し出すこと
3.ある箱を守り続け、その代の当主がその度作り直すこと
そう言うと、その神社の神主は当主に娘を渡し、ある箱を渡すと自らの命を絶った。要約したが、そういう物語だった。クリスマスの時期のくそ寒い公園で聞かされて、気持ちのいい話ではなかった。

私「・・・その話は、なにか意味があるのか?」
友人A「・・・代わりごとの贄は長男。つまり俺・・・」
私「何だそれ・・・お前の腕とか、いきなり変な話とか・・・」
友人A「・・・まぁ聞いてくれ。俺は来年の夏までに死ぬ・・・」
友人A「・・・ただ誰かに話を聞いてもらいたかったんだ」
私「その腕とはどうした?そのやせ方は異常だぞ。病院にいけ」
友人A「腕は・・・腐って落ちた。食っても食ってもどんどんやせていくんだよ」
言葉につまっていると、友人Aは「死にたくない」「つらい」「助けてくれ」と2時間以上泣き喚き、「ありがとう」と言って、深く頭を下げて帰っていた。

今月あのまま連絡がなく、こちらから連絡がつかないまま友人Aの訃報を受けた。葬儀に集まってきた学校の友人たちから事故死と聞いた。心の整理がつかず、友人Aの父親と母親が「よくやった」と泣いていたのが、いまだに耳からはなれない。

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