死者との婚姻「冥婚」

十五年程前に、知人の木下さん(仮名)が亡くなりました。数ヶ月後、木下さんの幼馴染みの金沢君(仮名)も自殺。問題は金沢君が残した遺書に「籍を入れて下さい」と書かれてあり、アパートから木下さんの遺骨の一部が発見された事です。

警察が調べてみても木下さんは事故であり、金沢君がどうこうといった因果関係はなく、好きだった相手が突然亡くなったのがショックで遺骨を盗み、本人も後追いを――という結論を出しました。飲み会で何度かお話ししたぐらいしか接点はなく、私は彼女達の葬式に参列しませんでした。一応、携帯の番号を交換していましたが、共通の友人を持つというだけの知り合いです。

彼女は生前、飲み会でこう愚痴っていました。「私達の国の男って最低。直ぐに嘘を吐くし、指摘すると嘘を隠す嘘を吐く。もっと言うと暴力を振う。日本人と結婚して日本人になりたい。でも帰化したってみんなで嫌がらせするし、死んでも逃げられないだろうなー」

随分俯瞰的な(それでいて意味の通じない)言い方をする人だな、という印象が強く残りました。帰省した際に友人へ以上の話を振ってみると、「あぁ冥婚(めいこん)だね」と話し出しました。曰く、死者と生者、もしくは死者同士を結婚させる文化が東アジアには存在するそうです。結婚させる理由は幾つかあり、親類同士が死者の幸せを望んだ場合。あの世で幸せになるようにと。

もう一つは経済的要因。厳しい身分階級がある社会で成り上がるには、婚姻が唯一の手段だったとか。とはいえ、実際の名家相手に婚姻し、縁戚になるのは難しい。であれば、死者であるならば簡単だ、と”無断で人様の墓から遺体を持ち出し、死者(or生者)と婚姻させる呪術”
だそうです。

現代へ至ると、経済的また古い信仰の淘汰により、先立たれた子供の供養として行う以外は廃れてしまった。――が、日本でも有名人や親族、また某国では未だに財閥会長の遺骨が盗まれたり、極めて一部では未だに信じられているのかもねぇ、と友人は話を括りました。

そんな話をしてから一年ほど経ち、存在すら忘れていた頃。木下さんの携帯から着信が届きました。初めは驚いたものの、ご家族からだろうと思い直して電話へ出ると、聞き覚えのない女性の声でこう告げました。「君の実家の墓を教えなさ――」

私は途中で通話を切り、翌日には電話番号を変えました。

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