出張で群馬に行った時の事。
仕事を終えて、レンタカーを返す為に駅に向かって車を走らせていた。
冬という季節のせいで、それ程遅い時間でもないにも関わらず、辺りはすっかり薄暗くなっていた。
暖房をガンガンに効かせた車中で心地良い倦怠感を感じながら、山道をのんびりと車を進めていると…
突然、爆音と共に後方から光の乱舞。
程なくすると、一台のバイクが爆音を響かせならが接近してきて、俺の車の後方で狂ったように車体を踊らせている。
「めんどくせぇなぁ…」
バックミラーで反射するライトに辟易しながら、車のスピードを落として抜かしやすいようにしてやる。
すぐに煽るのに飽きたのか、バイクは爆音をあげながら猛スピードで俺の車を追い抜いていった。
前方に遠ざかっていく爆音に、ほっ…としながら車のスピード上げようすると、 バイクが走り去って行った空中に光が踊ったのが見え、衝撃音が聞こえてきた。
アホが事故ったか?
そう思いながら、事故に巻き込まれないよう慎重に車を進めると、道路上に転倒している人の姿と、ひしゃげたガードレールが見えた。
放置する訳にもいかず、ハザードランプを点けて車を止め、人影…若い男…の元に近寄って行くと、 体を胎児のように丸めた姿勢で何かブツブツ呟いている。
「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい…」
何謝ってんだ?と思いながらも、男に「おい、大丈夫か?」と声を掛けるが、こちらに気づかないのか、男は目を閉じたまま延々と謝罪の言葉を続けている。
頭を打ったり、怪我をしてはどうかと考えたので、男の体に触る事も出来ず、 「おい!怪我してねぇか!!」と大きな声を上げると、男はパッと目を見開いて俺の方を見た。
結局「足が痛くて動かせない」と男が言うので、携帯電話で救急車を呼び、(119番には、男に現在地を聞いて場所を説明した)
救急車が来るまでに30分程掛かるという事なので、それまの間、男の側についていてやる事になった。
ただ待っているのも暇だったので、煙草を吸いながら男に声を掛ける事にした。
「アンタも吸うか?」と煙草を勧めるが、男は首を横に振る。
「俺が来た時、なんで謝ってたの?」と尋ねると、男は下を向いて落ち着かなさそうにしている。
「事故起こして謝るぐらいなら、変な運転しなきゃいいじゃん、危ないし」
男が何も言わないので、更に「大丈夫か?」って声を掛けると、
「いや、違うんスよ…」と言いにくそうにボソり言う。
要領を得ない男の回答に、「違うって何が?」と更に促すと、男はようやく謝っていた理由をボソボソと話し始めた。
・俺の車を追い抜いてから、調子に乗ってスピード出していると、急にロックが掛かったようにハンドル操作が出来なくなり、バイクが転倒しそうになった事。
・そのまま車道から外れそうになったので、必死でバイクから飛び降りて、したたかに道路に叩きつけられた事。
・衝撃と痛みに呻いていると「おい!」と声を掛けられて、目を開けると、着物を着て杖をついた一本足の髭面のおっさんが立っていた事。
・髭面のおさっさんが男の事睨みながら「うるさい…」と言い、「次はないからな!」と言って、杖を男の鼻先の路面に音を立てて突いた事。
・次に声を掛けられて目を開けたら、俺がいた事。
以上の事をボソボソと言うと、男はむっつりと黙ってしまう。
俺は二本目の吸殻を携帯灰皿に突っ込みながら、「次がないって言われたんなら、そうならないようすりゃいいだろ」
諭すように男に言うと、「……はい」と消え入りそうな声で男は答えた。
溜め息を吐き出して何気なく山林の方を見ると、道路との境にある木の陰に、ボワァっと浮かび上がるように白っぽい人影が見える。
俺はビビって、『勘弁してください』って思いながら頭を下げた。
頭を上げて再び木陰の方を見た時には、人影はいなくなっていた。
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報告者の口を借りて、約束の言挙げをさせたんだな
一本ダタラも案山子も、一本足の山の神