奥多摩の闇に飲まれる

奥多摩日原の雲取山に登ろうとしたときの話。

夜に登って、山頂で朝日が昇るのを見ようと思ったのだ。(俺は山には慣れていたので、夜でも登ってた)
夕方になって東日原のバス停に到着。
あいにく雨がしとしと降っていたが、山の上は雲を抜けて晴れている事が多い。だからそのまま進んだ。
今でもそうだが、日原の集落を過ぎると、一本の街灯も無い。
しかも雨が降る=雲っているので、星明りも無い時は、ライトが無いと本当に何も見えない。
いや、見えないというレベルではなく、
質量を持った『闇』というものが、周囲から自分を包むと言うか、そんな感じ。
ライトの向きによっては、自分の手や足が無くなったんじゃないかと思えるくらい。
はっきり言って怖い。
夜の山に慣れていると言っても、大抵は晴れているから、東京の光で物が薄っすらと見える。
しかし、こういう時は違う。真っ黒な『闇』しか見えない。

そんなわけで、たまに自分の手足を照らしたりして、林道を進んでいったのだが…
「あれ?」
今、自分の手首が無かったような…。
今度は まじまじと長袖の先を照らしてみる。
やっぱり、無い。
「ええっ!?」
怖いと言うより、理解不可能な状況に、その場に尻餅をつく。
雨ガッパズボンを通って伝わる雨水の冷たさに我を取り戻し、起き上がろうとする。
起き上がれない。
「?」
下半身を照らすと、足首が無い。
「!?!?!?」
もう、どうしようもないので、そこに座りこんだまま一夜を過ごす。
(折りたたみ傘をザックに刺しているので、上からの雨は半分寝てても防げる。
寒さであんまり寝れなかったけど)

朝、明るくなると…何の事は無い、手首も足首もある。
何だったんだろう?

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