ちょうど2年前の今頃くらいに、俺が一人で森吉山を登っていたときの話。
8時ちょっとすぎくらいに登り始めて、山頂に12時頃ついた。
下りはどの山でも半分くらいの時間で降りるのでちょっと余裕があったし、地形図も持っていたので、
コース途中から半分は登山道とは別の尾根の獣道を下ってみることにした。
この地方なら山菜を取るためにそういう人は結構いる。おじさんとかだけだけど。
山菜やきのこの菌床になりそうな木を探しながら歩いてるとき、
ミズナラの倒木(天然舞茸の菌床)見つけたので近くまで行くと、
ミズナラが根元からチェーンソーか何かで倒されていた。
そのとき30mくらい先に笹藪の間から、大きな穴のような黒い陰が見えたので、
ちょっと好奇心で藪を掻き分けてその穴の方へ向かった。
近くで見ると結構大きな洞窟で、奥もだいぶ広そうだった。
山用のヘッドライトもあったし、前に友達に連れられて洞窟に入った経験があるので、
ちょっとだけその洞窟に入ってみることにした。
洞窟を発見するのは結構まれなことで、見つけた人がある程度は自由に名前をつけてもいいし、
もし日本で新しく大きな洞窟が発見されれば、全国的なニュースにもなるとの話を聞いていたので、
かなり興奮していた。
でも、内部を確認しないで、『洞窟を見つけた』と洞窟好きの友達に言って連れてきたとき、
入ってすぐ行き止まりならがっかりさせてしまう。
だから俺としては、中の広さを確認しておきたかった。
洞窟は水溜りが多かったし、床は岩でゴツゴツだったが、
意外と広く、中でかなり分岐していて、100mくらい奥まで立って入っていけた。
通ってきた道は一番広く、別に迷うとは思わなかったけど、
分岐のある毎に戻って、山菜の本のページを破り捨てて目印にした。
距離がどのくらいかは分からないけど、入って20分くらいで、本道というか一番広い道が行き止まりになった。
正確には行き止まりではなく、壁の2~3mくらい上に人ひとり通れるかどうかというくらいの穴が開いていたが、
とても入る勇気はなく、よじ登ってその穴の中だけ確認してみた。
その小さい穴を覗くと、わずか1m先で狭い部分は終わり、
その先にライトを当てると、かなり広いホールみたいな空間があるのがわかった。
しかも、下からは石筍(鍾乳洞にできる地面から伸びる『つらら』のようなもの)が生えている。
穴の位置的に床面しか見えなかったので、面をなぞるようにライトを当てていると、
石筍に囲まれるように、横たわった人型の泥の塊が見えた。
不思議に思いそれを観察してると、その人型の塊の頭の部分に、明らかにメガネ型の出っ張りを見つけた。
その瞬間「うわっ!!!」って声を上げ、顔を突っ込んでいた穴から離れ、穴の空いた壁から這い降りると、
その穴から「ぞわわぁぁ……」って音がして、すぐ出口に向かって猛ダッシュで走り出した。
ゴツゴツした岩で何度もコケながら走った。
恐怖で頭がいっぱいで足腰がぜんぜん言うことを利かない。
走り出して2分くらいかで、「ぞわわわぁぁ」に追いつかれた。コウモリだった。
でも更に後ろから「うぉ~~ん」って唸りが聞こえてきて、またすぐ走り出した。
次の音は間違いなくあの人型の泥だと思ったし、
その音からはっきりと、あの泥が洞窟を這いつくばって唸りながら追ってくる姿が想像できた。
もう膝とか暗くて見えないけど、血だらけだろうと思った。
天井付近をコウモリが飛ぶ中ようやく出口が見えてきたが、日が落ちかけていた。
そんなに長い時間入っていたつもりはなかった。
すぐに洞窟から離れて尾根を走って下りた。
駐車場に着いたときにはもう7時半だったが、人はまだ駐車場にいて、
膝の怪我や足の痛みがピークで、下山してきたおじさんたちに助けを求め、車と俺を市内の病院まで運んでもらった。
人がそこにいたことが一番助かった。
膝の怪我は思ったより深く、鋭い刃物で切ったような傷は今でも残っている。
その日に洞窟好きな友達に連絡すると、深夜に洞窟クラブの人と一緒にうちに来た。
俺も一人でいたくなかったのでずっと話をしていたが、そのクラブの人と話して少し落ち着いた。
その人いわく、
・洞窟での唸りは、おそらくコウモリの羽音が反響して出たものであるということ。
・人型の塊は洞窟ではよくある、というか、人間は条件反射的に似た形を見つけてしまうということ。
・その山で鍾乳洞が見つかれば新発見である。
まあそんな感じらしく、俺はその洞窟のあるであろう場所を地形図で教えた。
後日、そのクラブの人から「一緒に探索しないか」と誘われたけど、
何を聞かされてもさすがにもう一度行く勇気はないし、
他の登山客に迷惑をかけてしまってる手前、包帯の取れない状態で行くのもどうかと思い断った。
洞窟クラブの人はその後何度か探索に行ったようだが、俺が教えたその周辺を何度探しても洞窟は見つからなかった。
その人たちが探しに行く前には電話があって、何度も場所を確認されたし、
見つけられず帰ってきてから何回かうちに来て、本当にその場所かどうか思い出してくれと言いにきたし、
ついてきてくれとも言われた。
彼らにしてみたら鍾乳洞の新発見は相当大きなことなんだろうとは思ったが、やっぱ俺はそこに行きたくなかった。
そんで去年、どうしても見つけられないし、俺が幻覚を見ていたんじゃないかって話にも発展していた。
正直俺ですらその可能性はあると思っていたし、あのときの恐怖も少しずつ薄らいできていたので、
もう一度自分が見たものを確認しておきたかったというのもあって、洞窟クラブの誘いに乗った。
話を受けその週末、山に入り探索を始めると、何でそのクラブの人たちが洞窟を見つけられないのかわかった。
彼らは全く山の素人で地形図を読めず、ぜんぜん違う場所の獣道に入って探索していた。
俺はあの時通った尾根を案内すると、2時間ほどの捜索でミズナラの倒木と、問題の洞窟が見つかった。
笹薮は前よりも茂っていたけど、風景がフラッシュバックしてくるように思い出してちょっと怖くなった。
総勢10人のクラブの人たちは、洞窟前で黙々と準備を始めたが、
俺は洞窟を目の前にすると、あまり入りたい気持ちにはならなかった。
いくら偶然だとは言われても、あの人型の泥は俺にとってリアルすぎたし、
口では説明できない異様な雰囲気を、あの時確かに感じていた。
それを話すと、クラブのリーダーに、
「こういっては何だけど、もう一度その泥をみてみると拍子抜けすると思うよ」っていう感じのことを言われたし、
それに撮影用の強力なライトもあるし、部屋とかと変わらないくらい明るいので、
不安もまた薄れ、入ることにした。
それに、外でひとりで待つのも嫌ではあった。
中に入ると、ライトのおかげもあり隅々まで照らされて、1年前とはだいぶ雰囲気が違うように見えた。
あの時見た感じとは違い、道はあまり分岐してないし、地面の岩もそれほど多くなかった。
そして、意外と道は上下左右にうねっている。
10人で進むと、時間はかかったが30分ほどで例の突き当たりに着いた。
俺はあの時の穴を見上げた。
クラブの一人が頭から中に突っ込むと、すぐ後ろ向きに出てきた。
ホールから先は確かに鍾乳洞で、入り口はホールの床まで4m近くあって、
はしごを張らなければホールには下りられないらしい。
ワイヤーの縄はしごを張って、みんなは次々と穴に入っていった。
俺も意を決して穴を覗き込んだ。
あの人型の泥がなかった。
泥があったはずの場所は、やはり石筍が立ってなかった。
それどころか、石筍はこのホールの入り口に向かう道を作るように折れている。
俺は穴から出て後続の人に「もう出たい」と言い、お願いして洞窟から一緒に出てもらった。
一緒に出てくれた人には、
「おそらく過去に何回か人が入って、石筍が折られたり、ホール内部も荒れてるのかもしれない」
と言っていたけど、俺はそうは思えなかった。
理屈では確かに、ミズナラの木を切った人はあの洞窟を見つけていると思うし、
その人が何度かその洞窟に入っていたとしても不思議ではない。
で、最近なんだけど、そのクラブの人から連絡があった。
俺が最初入った時に目印にしてた山菜の本の切れ端が、いくつも見つかったとのこと。
その全部が洞窟のホールの奥に束で置いてあったんだとさ。
長文失礼しました。
実話なのであまり怖くないかも知れませんが、クラブの人は今日もその洞窟を調査されるそうです。
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全てについて、理論的に説明は出来るね
でも、誰がそんなことをしたのか、行動に必然性を感じない
不思議で怖いな