4年前の12月のこと。
ある夜、天井北側から南側に向かって、ゴトッゴトッと音が移動してくる。音が部屋の真上で止んだので、天窓を見上げてみたら、しゃがみ込んで天窓を覗き込んでいる男と目があった。8階建ての最上階に住んでいたのに…キケンな奴だ…。
約一週間後、私の部屋に作業服を着た若い男がやってきて、「大家から頼まれて、煙突と暖炉の掃除に来た。合い鍵を作りたいので鍵を貸してほしい」と言う。
「そんなものは無いから大家が頼むわけない」と言うと、おかしな事を言いだした。「実は依頼主は大家ではなく、12月に煙突と暖炉の掃除をしてもらわないと困るので、自分が派遣された。 煙突と暖炉が無いはずはなく、なぜなら依頼主がこの前確かめてきたからだ。 あなた、この前見たでしょ、あの人のこと。夜来たでしょ? 無いって言うなら、家に入れて確認させてもらわないと困る。あの人に怒られる」
『夜来たでしょ』と言うのは、多分天窓の男のことだろう。
しばらくのやりとりの末、彼はしゅんとなった後、「12月なんだよ?どうするの?」と、泣きそうな顔で去っていった。
その後、友人達とこの件について話してみたのだけど、
1.サンタではないか(12月で煙突と暖炉にこだわるから)
2.掃除にきたのは実はトナカイで、サンタに怒られるのが怖かった
3.サンタとトナカイでないならば、そういった妄想に囚われている人間では
(サンタ妄想とトナカイ妄想の2人組、または同一人物の1人)
4.いたずら(同じく1人か2人組)
5.たまたまいたずら好きかおかしいのが2人、同時期に来ただけ
という仮説が出た。
多分サンタはいないので1、2はないだろうし、妄想かいたずらの可能性が高い。妄想なら、クリスマスにサンタは来るつもりなのでは、また、いたずらでも、わざわざ8階建ての傾斜した屋根に上っていることから、『ヤバい』という結論になって、12月なかばから1月まで実家に避難することに。結局、1月に戻っても、二度とサンタとトナカイが現れることはなかった。毎年12月になると、「あれは何だったのか」と思い出しちゃうよ…。
警察ですが、届けないままでした。実害が出ていないのと、当事者である私自身不思議に思うことだらけで、警察側も対応しかねると思ったので。 『ヤバいと感じたかどうか』ですが、それが不思議の一つなんです。話している内容は明らかにヤバいのですが、話す本人はものすごくまとも。おだやかで、いい意味での優等生風の人で。あんな内容を話して「合い鍵作らせろ」では、いくら好感度の高い人間でも、相手に危険な印象を与えてしまうのが普通だと思うのですが…。彼の話す内容と印象があまりにもかけ離れているので、仮説を立ててみてもいまいち納得いかないんですよね。
妄想説が一番ありえそうですが、上の通り、彼の印象が解せない。仮説5だと、なぜ天窓男のことを知っていたかわからない。いたずらであれば、誰かが命がけで屋根に上ったことになるし。彼が来なければ、『真冬に覗き魔が1人来た』で済む話だったのですがねえ…。