3~4歳ぐらいの頃の話。
当時、私の家族は一階平屋の借家に住んでいた。私はそこで毎晩嫌な夢を見ていた。真っ暗で、家の中をふわふわ漂う夢だ。その家の家具一つひとつがリアルで、今でも鮮明に思い出せる。そして、そこにはおじいさんが居た。上手く言い表せないが、おじいさんは全身が白黒映像のような感じで、言葉の意味はわからなかったが、いつも私に悪態をついたり、愚痴を言ったりしていた。
ある日、母と一緒に叔母さんのマンションに遊びに行った。階段を上り、叔母さんの部屋の前に着くと、そいつはそこに居た。母はその『白黒おじいさん』の存在に、全く気づいていなかったようだ。そいつは満面の笑みで私に語りかけた。『そこに手を置いてみろ。おもしろいことが起こるぞ』 そこはドアのちょうつがいだった。その直後、母はそのステンレス製の重たいドアを力いっぱい開いた。
次に気が付いたのは救急車の中だった。左手の人差し指は辛くも切断を逃れた。よく覚えていないが、その瞬間あいつは、ひどく大声で笑っていたのが聞こえた。
結局、その家から引っ越すことになった。その家で人が死んでいたことを、大家が隠していたためだった。 近所の人の話で判ったらしい。亡くなったのは一人暮らしの老人だった。
20年以上経った今でも、寂しく、切ない夢を見ることがある。身寄りの無い老人が、ひとり街をさ迷う夢だ。
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