老人しかいない村

余り周囲の人には言えないタイプの話なのですが、こちらでなら聞いていただけるかも知れないと思い、書き込んでみます。とにかく誰かに聞いてもらって、自分の中で整理をつけたいのです。

二年前、義理の姉が死んでしまいました。後述する様に、私が明確に「自分の家族だ」と思って居るのは兄しか居ません。兄も同様ですので、兄の結婚後離れて暮らす様になっても、互いに行き来し合っており、私と義姉とは本当の家族の様になっていました。(少なくとも私はそう思っていました)だから、新婚だった兄の悲嘆は深いものでしたが、
私も大学を休学する程落ち込んでしまっていた、という状況でした。

兄夫妻が暮らしていた実家の私の部屋で、私は義姉の事について考え続け、そして妙な事を思い出したのです。それは子供の頃の記憶でした。忘れた事はなかったのですが、特に思い出したり、義姉と結び付けたりする様な事はなかった様なものです。それはこんなものでした。

私と兄とは子供の頃、一時期東北の親戚の家に預けられていました。私の家はちょっと環境が複雑で、両親は殆ど日常茶飯事に姿をくらますという状況でした。ですから多分、逐電対策として、手の空いていた親戚の所に放り込まれたのだと思います。

今にして思えば、あれ自体が不思議な体験でした。多分過疎の村だったのだと思いますが、何しろ老人しかいないのです。少なくとも子供なんかはおらず、就学年齢前だった私はともかく、五歳年上の兄迄も学校にも行かず、日がな一日、ぶらぶら畑の中の道を歩いていました。

親戚の人に意地悪された記憶なんかはないのですが、親切にされたと言う記憶もなく、
はっきり言うと、何処の誰だったかも思い出せない曖昧な過去です。私達は大声を出して遊ぶ事も憚られる様なその静かな村で、「寂しいねー」とか言いながら過ごしていました。

で、そこで私は、一日だけちょっと不思議な体験をしたのです。はっきり言って不思議と言っても、この段階では『地味』なものに入ります。老人ばかりのその村の、私達兄妹だけの遊び場に、若い女の人がやって来たのです。幼児らしく思考能力のなかった私の方は、「わーいお姉さんだー。今日はー」とか言っていた記憶がありますが、兄は流石に警戒して、私を引き戻したりしていました。ですが、兄もそのうち慣れてしまった様で、私達は三人で暗くなるまで遊びました。

で、何処が不思議なのかと言うと、先ず、次の日から、そんなお姉さんには全然会えなかったと言う事。そして、そこは東北であったにも関わらず、何故か女性は関西の言葉を話していた事。(これは実を言うと曖昧です。でも、多分そうだったと思います)
更に、そのお姉さんが時々、私達に理由もなく謝っていた事です。一番最後の事があった故に、私はこの出来事を覚えているのです。遊びの切れ間に、いきなり「ごめんね」とか言い出すので、ぎょっとするわ少し怖いわで、そのお姉さんの事を「変だなあ」と思っていました。記憶はここまで。で、『実家で義姉について考えていた』ところまで話を戻します。

物凄く哀しんでいたから、多分その所為もあるんでしょうけど、記憶の中のその女性と義姉が、私には同一人物としか思えなくなりました。顔も似ていた様な気がするし、姉も関西人でした。飛躍し過ぎだとセルフ突っ込みを入れつつも、思考は止まりません。

そして、もう一つ小さな事を思い出しました。兄と義姉が結婚する前、「あの兄の何処が良かったの」みたいな事を訊ねたら、義姉は「○○(兄の名前)君に、物凄い勢いで口説かれてそのまま流された」と笑って答えたのです。 正直、にわかには信じ難い話でした。

先程お話した様な家庭の事情が原因だと思うのですが、兄には人間不信気味な所があります。大人になっても兄は、顔も頭も決して悪くないのに『怖い人』で通っており、家族以外にフレンドリーにしている所なんか見た事もありませんでした。以上の様な事情を話しつつ、義姉からより話を聞くと、「前に会った事がないか」と、しつこく言って来たというのです。単に物凄く義姉が好みだったに過ぎない、と言う可能性もありますが、それにしたって、少しでも兄を知っている人にとって、彼が人を口説いたりする様を想像するのは中々困難です。本当に『兄は義姉と以前に会っている』と考える方が、私には自然に思えます。で、『それは子供の頃に会ったあのお姉さんじゃないだろうか!』と。

その時は盛り上がりましたが、やがて二,三ヶ月経ち、どうにか立ち直って来てみると、どう考えても違う様に思えて来ました。兄も取りあえず外見は大丈夫そうになって来ていたし、私はバイトもあったので、大学近くのアパートに戻る事にしました。それで、二年が普通に過ぎまして、ついこの間の事です。

今年のゴールデンウィークに私は兄と会い、多分初めて、姉が死んだ時の話を兄の口から聞きました。姉の死因は交通事故です。病院に運び込まれて、手術前に兄と話した時、義姉は「先に死んじゃうなんて●●ちゃん(私です)にもうしわけない」とか、「ちゃんと謝りたい」みたいな事を言ってくれていたそうです。

家庭に恵まれなかった私の事を、姉はいつも気にかけてくれていました。それで私は、子供の頃会ったあの女の人の事をまた思い出したのです。姉は優しい人だから、幼少時見捨てられた子供だった私達の事を最後迄気にかけて、訪ねてくれたのではないか。そして(そんな事いいのに)謝ってくれたのではないだろうか。そう思った訳です。

何だかすっきり整理が付いた様な口調ですが、本当はそうでもなく、可能性が増えてしまっただけに結構混乱しています。兄に『昔のあの女性の事を義姉だと思っているか』なんて話は流石に出来ないし、友人達にするには、家庭の事情を話さなければならない部分も多い為、躊躇われるのです。

長くなってしまってすみません。でも、私の中でちょっと整理がつきました。『不思議だなあ』って体験です。

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