度数の高いコンタクトレンズを欲しがる男

私はとある眼科で検査員を生業としています。コンタクトレンズ等の処方も手がけております眼科ゆえ、単に眼病の患者様だけを見ているわけではなく、健康体、それも『いたって』が付くような患者様も来院されます。
コンタクトレンズはただ視力を出せば良いというものでは無く、PCを多用されるような方には、なるべく弱いレンズ、タクシーのドライバーの方には、危険防止の為に強いレンズを問診をして処方するようにしております。 お断りいたしますが、私は無資格ですので、もちろんDr.の指示のもとでの処方です。

そんなある日、どうしても強い度数のレンズが欲しいという若い男性が、当医院を訪れました。強いレンズには、よく見えるというメリットと、反面、見えすぎて肩こりや頭痛の原因にもなるというデメリットも持っておりますので、言われるままに処方する事は禁忌になっておりますので、まずは問診から始めます。
「どうしてもという事ですが、どういった理由でしょう。 強いレンズは相当の眼精疲労が付き物ですので、おっしゃる通りにお出しするわけにはいかないのですが」

彼は、自分は山岳救助隊に在籍している事と、そこでの出来事を話し始めました。
「皆さんが遠くから呼ぶんですよ。 僕は小さい頃から目が悪くて、でも彼らの助けを求める声に応えないと後が怖いんです」
「?」
「毎晩枕元に立って、『自分は何処の沢の南に居るから迎えに来て欲しい』とか、 ひどいのだと、 『僕が来ないから体が段々虫に食われていく』『お前が来ないせいで自分の体が壊れていく』 とか言うんです。 だから、遠くからでも彼らを発見できるような、良く見えるレンズが欲しいんです」
ここまで聞いたら、彼の言う『彼ら』が、この世の者ではない事がわかります。生半可に見えたり感じたり出来ると、彼のように『彼ら』パシリに使われてしまうんですね。

彼は冬場の遭難救助よりも、春先に多くシフトを組まれるようです。隊の中でも、彼の能力(?)は重宝されているようですね。私には、30人以上はいる彼の背後の方々を感じてしまいましたが、『彼ら』は彼を元気にしている、という印象を受けました。こんなにもたくさんの方々が憑いておられる彼は、この冬に山岳で亡くなられる予定の方の強い味方ですね。もちろん、亡くなられた後の味方ですけれど。

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