これは俺が新卒で入った会社の先輩の話なんだが。宣伝部に配属された俺は、先輩と二人で取引先に外回りに行くのが仕事だった。その先輩は入社して約10年でとても頭の回転もよく、明るく正義感の強い、人としても社会人としても男としても、とても憧れの先輩だった。実際、会社の女の子にモテモテだったし、誰からも信頼される完璧とも言える先輩だった。なので、入社していきなりこんなすごい人が先輩でラッキーだった。ご飯を食べに行ったり遊びにも連れて行ってもらったりで、とても仲良くしてくれた。
入社から三年ほどたったある日、夜中にその先輩から電話が掛かってきた。「今すぐうちへ来てくれないか」と言い、すぐに切れてしまった。そんな意味不明な事を言う人ではないので、何かあったのか?!と思いすぐに先輩のアパートへ向かった。
アパートに着き、インターホンを鳴らすがなんの気配も無い。しかし、明かりは点いている。すぐに先輩に電話をすると繋がり「今、ドアの前にいます、どこにいるんですか?」と言うと同時に、カチャとドアが開いた。
ものすごく青ざめた顔で、目がどんよりしている先輩が見える。部屋へ上がると、特になにか起きたような様子もなく、落ち着いた部屋だ。ただ、先輩は震えてる感じでただ事ではない様子。何かあったのがと聞くと、一枚の茶封筒を出した。
中には手紙のようなものが入っており、中を開けると達筆な文字で確かこう書かれていた。「赤子ノ中絶、灰汁(?)ト脂肪ニ?????烏ス火ノ・・・・」実際はもっと長く意味不明だった。なんですか?これ・・・と聞くと、父親から来た手紙らしい。その手紙の中身についてはまったく解読不能だが先輩には意味が解るらしく手紙の内容は簡単に言ってしまえば「緊急事態が起きた、すぐに戻って来い」との事。
先輩はG県のある集落出身らしく、その集落を出たのは中学生の時で(実際は逃げてきたらしい)それ以来、親とは連絡は一切せず疎遠していたが手紙は一方的に何通も来ていたようだ。先輩の生い立ちなどは、そういえば聞いても教えてもらえず、その日初めて聞いた。そして”一緒にその集落へ行き立ち会ってくれ”という事らしい。
すごく世話になってるし、生い立ちを始めて話してくれた嬉しさもあり二つ返事で軽く「いいですよ」と答え、行く日を決めその日は帰った。今考えると、なぜ先輩があんなにガクブルしていたのか聞くべきだったのだが……。
やがて約束の日になり車で約5時間かけて、その集落へついた。話には聞いていたが、ものすごい田舎で未だにぼっとん便所があるし電気さえ通っていなさそうな家もある。というより、家がボロボロで人が住んでるようには見えなかった。田んぼや畑だらけで真昼間なのに、耕す人も、人っ子一人も居ない。家は見た感じ全部で10軒もないだろう。
そんな中、頬かむりをしたおばあさんがそのボロボロの家から出てきた。不思議そうな顔をして俺達を見ているので、怪しまれているみたいだ。先輩はそのおばあさんに近寄り、あの手紙を見せながらしばらく話し込んで戻ってきた。 おばあさんはまだ俺を凝視している。時折、なんかブツブツ言ってるし不気味だった。先輩は気にもせず、舗装されていないドロドロの道をどんどん進み、やがて先輩の実家に着いた。
今まで見た家より遥かに立派で、大きい屋敷みたいな家だった。中から大柄な父親らしい人が現れ、先輩はいきなり土下座をして謝りだした。
「すみません、もう私はこの家には戻りません、集落へも来たくないです」
と告げ、そのまま土下座を続けた。
190センチぐらいありそうなその父親は「とにかく中に入るんだ」といい、無理やり立たせ先輩を引きずるようにして中に押し込めた。俺だけポツーンと残して…。すぐに先輩が戻ってきて、無言で俺を中に通した。玄関から居間へ通る際、長い廊下を歩きギシギシ鳴る床板にビビりながら歩くと、いくつかの部屋を通り過ぎた。ほぼ全ての部屋に外側からカギがついてて、あの手紙と同様解読不能な文字で部屋名みたいに書いてあった。 (旅館の「牡丹の間」みたいなのとは違う)建物自体カーテンやら目張りがされていて暗くよく見えないし、窓ガラスも拭いた形跡もない、全体的に埃っぽい。
やがて居間に通され、部屋を見るとものすごい数の額縁の写真が飾ってある。100は軽くあるし、白黒なものや肖像画みたいなものとか。TVもないしガラーンとしていた。ちなみに、父親には俺が見えてないのか?ぐらい完全に無視され続け、挨拶もまだしていない。
居間では、親子喧嘩が始まったみたいに
先輩「ここに戻ることはできない」
父親「お前はしきたりでここに居なくちゃならん」
との押し問答で、ずっと永遠に続きそうだった。途中トイレに行きたくなり広い部屋に迷いながら、まっくらなボットン便所にびびりながら居間に戻ると、まだ言い合いを続けている。そして、時折会話の中に不気味さを感じる。
「お前がここを出てくなら俺を殺していけ」
「母親はお前を恨んでいた」
「奇形をこれ以上増やしちゃならん」
「土偶にされたいか」とか・・・・。
気付いたらもう12時回っていて、ご飯も食べずずっと…。流石に疲れて、ついつい眠ってしまった。
目が覚めると、俺は布団の中に入っている。部屋は居間ではなく別の部屋のようだ。おそらく、先輩が運んでくれたんだろう。時計を見ると、朝の10時ぐらいでシーンと静まり帰っている。外に出て先輩を探すと、井戸で水を汲んでいるのを発見した。
「すいません・・・寝てしまいました・・」というと、ニッコリ笑って
「ごめんなぁつき合わせちゃって」といつもの爽やかスマイルだ。
結局、どうなったのか聞いてみると、夜中の3時ぐらいまで話し合ったそうだ。ここからしばらく長いのでまとめると、この集落は全て血が繋がっており、代々親族である兄弟同士で結婚をし、子供を儲ける。母親は先輩が産まれてすぐ病気を患ったが、病院がないため亡くなった。この集落から出たら、2度と帰ってきてはいけない。ここでは奉っている神がおり、2月?日(この日でいう1ヵ月後だったはず)は「神の日」今集落は壊滅の事態で、その神の日に生贄が必要で、その生贄が先輩らしい。
流石に「何言ってんだこいつ・・・」と思ったが、嘘をいう人ではないし真面目な顔をして話すのだ。どうも本当の事みたいだが、今の時代に生贄とか有り得ないわけで。すぐに逃げたほうがいいと促すが、腹をくくった様子でお前にはわざわざ来てもらって悪いが帰ってほしい、そしてこの話は忘れてくれとの事。 それから押し問答を繰り返したが、先輩はだんだん怒り出しそのまま屋敷に帰ってしまった。とにかくここを出て警察なり通報するべきだろう、と考えすぐにこの集落を出ることを考えた。
来た道を戻りドロドロの道を歩き、車へ向かう途中で何人か人が歩いてるのを見た。その中に小学校低学年ぐらいの子供をみたのだが、女の子なのか男の子なのかわからないぐらい髪が長く、チラっと見える顔を見ると額がものすごい腫れあがり歩き方も変だった。大人も2人ほど居たのだが、顔に大きなコブらしきものをぶら下げてや年寄りでもないのに杖(?)をついて歩いている。服装もボロボロだし、どう考えても異常で不気味。
あの話もあながち嘘ではないのかもと思い怖くなってきて、車まで猛ダッシュで乗り込んだ。エンジンを掛けバックで出ようとするが、ぬかるみにハマったらしく車が唸るだけで動かない。そして、ここへ着いてはじめてあったあのばあさんが、気付いたら真横に居た。
「ここで見たこと聞いたことは誰にも話すんじゃないぞ」と言ってきた。「あなた方はどう考えても普通じゃない」とついつい返してしまったが「うるさい、よそものは出て行け、土偶にして埋めるぞ」等、ものすごい剣幕で罵られた。そして、ばあさんは家へ戻っていった。
やはり話の通じる相手ではないここマジでやばいな、と直感で感じ逃げるように家に帰った。その後、警察に行き起きた事を全て話すが、信じてもらえない。そもそもそんな集落は無いし、山しかないらしい。とは言え、一人の人間が消息不明なので付近を調べてくれるらしいが連絡は一切ない。
ケータイはあそこじゃ繋がらなかったので、先輩との連絡はついていない。それ以来あそこには行ってないし、絶対行きたくない。とくにオチはないが、もう10年以上前の話だから書きました。
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その、な、うん
田舎をなんだと思っているのか