道祖神と体の痺れ

これは昨年の夏に体験したのですが、何かを見たとかではなく、文章を読んでるだけでは恐怖は伝わらないかも知れません。ただ、本当の恐怖とは、感じた本人にしか解らないものだな、としか言いようもないのですが…

昨年の8月。毎年恒例ともいえる”出るらしいスポット巡りドライブ”に、俺、K、Mの3人で出かけたときのことです。前回の投稿にも名前のあったI.Kから、出るらしいというスポットを聞き、俺の運転で出かけました。奈良の田舎とだけ言っておきます。詳しい場所を明かすと良くないでしょうから…

現地の近くまでは行ってるはずなのに、一向にそれらしい場所には着かず、近辺をグルグル回って探索していましたが『もっと南の方かも知れんな』ということになり、そこからは知らない田舎道をドンドン走って行きました。初めは広かった道幅も、両側を山林に挟まれた峠に入り、やがて軽自動車ですら対向できないような山道へと進んで行ったんです。

所々に対向のための待避所のような所はあるものの『工事用の車両とか来たら絶対ヤバイよなあ。夜中で良かったな』などと言いつつ、車を走らせてたんです。一応ナビも付いてるし、ナビ上の道も先で知ってる土地に出そう。ステレオもお気に入りの曲を流しつつ、みんなで歌ったり馬鹿ばなししたりだったので安心してましたが、突然、言い知れぬ不安に襲われ、俺は車の速度を落としました。

なんか解らんが、この先に行ったらアカンような気がする。けど、戻るにも道が狭すぎて、Uをかますスペースがない。そうこうするうち、すぐに足元から冷房ではない類の冷気が肩口まで這い登ってきました。ヤバイかも?とは思うのですが、戻る糸口がない。寒気を感じた直後、足の爪先から急に、ジーンと痺れが来ました。ずっと運転してるからに違いないと思った途端、その痺れは腰の辺りまで一気に広がり、運転どころではなくなった俺は、道端に車を停車させ、うつむいて痺れが去るのを待つことにしました。

車内は冷房が効いていて、涼しいぐらいなのに、急激に冷や汗が流れました。黙ってうつむいている俺の隣で、Kが、『…さっきからやろ?』と突然言うのです。『何が?』と聞くと、『さっきのカーブあたりから痺れてんちゃうの?』と俺にしか解らないはずの俺の体の異変を言い当てました。

『おぉ。せや。急に痺れきてよぉ。なんや?これ?わははは』俺。
『実は俺もやねん。急に足元から腰にかけてビッリビッリきてんねん。ひゃひゃひゃ』K。
笑ってはいますが、お互いに初めての経験から、幾分渇いた笑いでした。

すると後部座席に座ってたMが、
『二人ともビビりすぎちゃうかー?俺はなんともないでー。なんもないやんけー。行ったらんかぃ、こんな道ぃー』と普段と変わらないテンションで言ってきます。しかしその顔は青ざめていました。ただの道なんです。真っ暗で両側を森に挟まれてはいますが、ほんとうに田舎では見慣れた道。アスファルト舗装もされてます。だけど、俺もKもそこから先に進む気にはどうしてもなれず、次の待避所でソッコーU切って帰りました。

後日、当初探していたスポットにI.Kを連れてKとともに行ったのですが、その場所(広いウッドデッキの展望台)はすでに取り壊されていて、雑草の生い茂る空き地になっていました。何度かその前を通っていたのですが、展望台を探していた俺らにはただの空き地としか映っていなかったため、スポットに着けなかったのは当たり前でした。その展望台には石碑があるということだったのですが、石碑もなく、代わりに道祖神(お地蔵さま)が荒れた空き地の隅に佇んでおられました。

あの山道の中で俺とKが感じた痺れが、なんだったのかは今も解りませんが、真っ暗で周りもよく見えず、突如体に異変を感じ、それが同時に友人にも起こっているという状況は、非日常を体感するには十分な恐怖でした。あのまま道を進んだとしても、なにもなかっただろうし、なにかあったかも知れない。機会があればもう一度あの道を走ってみようと思います。

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