小学2年生の頃の話だけど、家で留守番してたら家電かかってきて、出てみた。なんか向こうでガーガーなってて、その頃は携帯なんかなかったし音が乱れるのも初めてきいたし、電話自体常用してなかったし、慣れないわけのわかんない音にボーっとしながら「もしもし」繰り返してた。
そのとき、なんか聞こえたので耳をすましてみた。聞こえたのは、女の声。大人の女性の声。ボソボソ泣いてるような声がして、子供だったわたしはなんか可哀相になって、話しかけてみた。
「どうしたんですか、かなしいんですか?」
すると雑音は消えて暗い女の声がハッキリ聞こえた。
「…わたしは、いないここには、いなかった。いないわたし、どこに、わたし」
多分こんなことをいってただろうと思う。
あんまりにも支離滅裂で大人ならすぐ切るだろうけど、子供だったわたしは、泣いてるその人が可哀相で必死に慰めようと試みた。
「あなたは今どこにいるんですか?」
「どうして泣いているの」
いろいろ聞いてみる。でも向こうは同じようなセリフを繰り返しているだけ。何分間かの噛み合わないやりとりが、一変する。
女が「怖い、暗い、怖いよ、怖いよ」と私になのか、誰になのか、取り合えず助けを求めてた。徐々に大きくなっていく女の声に私は我にかえって、気持ち悪くなった。
「これは危ない、どうして気付かなかったんだ」
そう思って電話を強制的に切った。
母が帰ってきたのでその話を恐る恐るしてみる。
「お母さん、今日こんな電話がかかってきたんだ。」
母は目を合わせないかのように口を動かす。
「へぇ~イタズラじゃない?危ないからすぐ切りなさい、そういうのは。」
なにか納得がいかなかったものの、その日は寝ることにした。
部屋に戻ったあと、そのことを頭の中でよく考えてみると、この世のものと思えない恐怖と嫌悪感が涌き出た。というか、部屋に他の誰かが、いてはいけない誰かがいるかのように寒気が走った。そのとき気配を感じたというより、なぜか必然的に窓(私の部屋2階)のほうに目をやった。すると、怖がって震えている私を笑うかのように、血だらけに長い黒髪の女が、胸から上まで笑いながら出現。びっくりしたのが、その白い片手には黒電話の受話器が持たれていた。
頭がまっしろになり、パニックにおちいった私は部屋のドアを力いっぱいあけて階段を下って母のところへ。
「どうしたの、怖い夢でも見たの!?」
そのとき母が必死にわたしに話し掛けていたけど、一言くらいしか覚えてない。落ちついてから話すと、母は顔色を変えて、ゆっくり言った。
「パパやあんたが怖がると思って、言わなかったんだけど、ママもその電話を受けたことがあるし、その後2階の(わたしの部屋のとなりの)部屋に洗濯物ほしにいったときに、庭に電話を持った女の人がこっち見上げてた」
その日二回目の腰抜かし。その女の人の謎については母も知らないらしいけど、土地になにかあるんでは、という話に。あまり話すと怖いので、その日から何ヶ月かは母と寝るように。それ以来、電話も女の出現もなかった。