半年前に亡くなった友人

『追いかけられる』……この言葉をこれほど恐ろしいと感じたことはなかった。
ある年の始めに、新年会をやった。ワイワイ賑わい、くだらない話で盛り上がった。新年会の場所が、ある友達の家だったので、PM9時くらいで解散ということになった。帰り道がほぼ同じなので、私と一緒に参加していた、KとHを含めて、計三人で帰ることになった。三人共、自転車だった。

肌寒い。季節も冬なので、当たり前なのだが…。辺りには誰もいない、ポツポツと弱々しい光を放つ外灯が余計に不気味さを引き立てた。私とHは、ガキの頃の思い出話に花を咲かせていた。
H「でさぁ~、あいつ、母ちゃんにケツ叩かれて泣いちゃって!」
私「マジ!?ダッサ~~」
などと、話をしていると、Nがおかしな行動をし始めた。Nは何故かしきりに後ろを振り返っていた。
私「おい、なにしてんだよ。可愛い女でもいたか?」
N「いや、そんなんじゃねーんだ……」
H「じゃあナンなんだよ?」
N「……さっきから後ろで変な声してんだ。」
私「あん?後ろ?」
三人共、自転車を降りて、後ろを振り返った……
私「ナンもねえじゃん。」
N「あれ?ぉかしいなぁ……」
H「空耳だろ。ったく、ビビらせんな!」

………自転車に乗ろうとした瞬間、
私「んっ?」
鼓膜に微かな振動……ザッザッザ……。
私「あれ?ナンか、聞こえたよな?」
H「へ?お前まで何言ってん……」
ザッザッザッザ……今度は全員に聞こえた。私は目をこらした。……人間…?髪の長さからして女?………おかしい…こともないか。夜中とはいえ、女一人でいることは不自然じゃない。………やっぱ、おかしい。…人間だよな……?普通だよな?…………じゃあ、どうして、その女は四つん這いになって笑いながら、こっちに向かってきているんだ!?

三人「……………」
H「やべ!!逃げるぞ!」
三人とも自転車に飛び乗った。あとは無我夢中でペダルをこいだ。
N「ナンなんだよ!!アレは!!!」
私「ハァハァ、知るかよ!!俺だってわかんねぇよ!!」
H「とにかくこげ!アレに追いつかれたら、絶対にマズい!!!」
後ろを見ると、すごいスピードで追ってきている。
私「おい!尋常じゃねぇ!!なんだ、あの速さは!?」
N「ちくしょう!」
Nはかごに入っていた荷物を、女に投げつけようとした。
H「やめろ!アレに自分の持ち物を渡すな!一生逃げられねぇぞ!!」
N「じゃあ、どうすんだよ!?」
私「もうちょいで、繁華街だ!そこまでこぎまくれ!!」

やっとの思いで、人で賑わう繁華街に着いた。
私「あの女は!?」
H「俺達が繁華街に着いた途端に、消えちまった……」
安堵の溜め息……ふと見ると、Nが真っ青な顔をしていた。
私「どうしたんだよ?まだ、ナンかあんのか?」
N「みんな気づかなかったか?俺も今、気づいたんだけどあの女…ひょっとしてSじゃないか?」
私,H「!!!!!」

Sとは、昔、よく遊んでいた女仲間で、私の数少ない親友だった。
『だった』と言うのも、Sは半年前、事故で死んでいる。
H「じゃあ、アレはSだっていうのか」
N「ああ。もしかしたらSは、俺達と、もう一度遊びたかっただけかもな」
H「ああそうかもな」

私「アホ」
そんなわけない。遊びたかっただけ!?違うに決まってんだろ!
Sの、いや、アレの目は明らかにこう言っていた。
「殺してやる」と。

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