教師をしている知り合いから聞いた話です。彼が東京で大学生をやっていたときのことです。
夏休みの最後にチャリンコで軽井沢へ行きました。なかなか予定通りには進まず、碓氷峠でとっぷりと日は暮れてしまいました。と、あせる知り合いの目の前を母親と5~6歳の子供がすっと横切ったそうです。その時は今ごろどうしたんだろう、と思っただけだったそうですが、しばらく走った後に、あの親子が行った先は崖だったことに気付いたそうです。
ひょっとして、まずいものを見てしまったんじゃないか、と思いながらコーナーを曲がった知り合いの目の前にパトカーが…「どうしたんですか」と警官に尋ねる知り合い。
「車が落ちてねえ…。おかあちゃんとまだ小さい男の子だよ。あんたも親がいるんだろ、気をつけていきなよ。」
思わず崖下を覗き込むと、落ちた車から飛び出している死体はなんとなくさっきの親子のように見えたそうです。
それから数年、知り合いは関西のある都市へ赴任しました。繁華街で同僚と飲んで、帰宅のために始発駅から電車に乗りました。最終電車です。くらくらしながら対面式の前の座席を見ると、どこかで見たような親子が正面に座っています。酔ってもいたので、はじめは誰だかわからなかったのですが、誰だかわかった瞬間、恐怖が知り合いを襲いました。そう、あの親子だったのです。慌てて次の駅で降りました。
次の年、彼はN中学の教頭になりました。新任のスピーチを生徒、PTAでいっぱいの講堂でしていると、後ろのほうに見たような親子がいたのです。そう、あの親子でした。
それから、いろんな式の途中であの親子の姿を見かけるそうです。
「恐くありませんか」と聞くと 「慣れちまったよ。あの親子も、死ぬ直前、最後に見た俺の後をついてくんのかなあ。」と苦笑していました。