これは去年の夏、私が体験した出来事です。
私は新潟県の某中学校の剣道部に所属していて、上達のため地域の剣士会へ通っていました。剣士会では毎年、昇段審査を受けるため3泊4日の合宿で寺泊と言うところへ行くことになっていて、中2の私も初段をとるため参加しました。宿舎は海沿いの浜じゃ屋で、おばさんと二十歳くらいのにぃちゃんねぇちゃんが働いていました。
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合宿二日目の夜の事です。何となく怪談話をしようって流れになって、輪になり三年生の男の先輩が最初に話し始めました。「友達から聞いた話だけど、うちの学校……」なんて具合に話がすすめられていきました。暫らくすると同級生の男子が「次、楊((ヨウ)私)話せよ」と言ってきました。
私が話し始めようと口を開いたときです。
「…ダメ…」
蚊の泣くようなか細い子供のような声が妙にはっきりと聞こえたのです。
「今の、何?」
後輩がつぶやきました。
「誰?悪戯?」
皆首を振って何人かは怯えたような顔つきでこちらを見ています。
「マジででちゃった?」
同級生が場を和ませようと明るい口調で言いました。
「…メ…ダメ…くっ……」
その場にいる全員は怖くて動けませんでした。
「やめよう?もう寝よう。ヤバいって」
後輩が泣きそうな声で言いました。皆、頷き同意しました。しかし誰も動きません。夏だというのに鳥肌がたち、背中に変な汗をかいていました。皮肉なことに雰囲気づくりの一貫で電気は全部消し、光っているのは緑の非常灯だけ。すると突然私のむかい側に座っていた男子が、ひぃっと息を呑み目を見開いて私の方を指差したのです。驚いた私はバッと座った状態で後ろを向きました。
そこには畳から上半身だけをだして、下半身が埋まっているかのような、つまり上半身だけの髪の長い少女が手を前についてこちらを睨んでいるのです。あまりの怖さに声が出ませんでした。その少女はバタッと俯せに倒れたかと思うと自衛隊などがよく訓練でやっているような、ほふく前進と言うのでしょうか、腕を使いゆっくりとこちらに近づいてくるのです。最初はゆっくりと、しかし近づくにつれ段々早くなって近づいてきて、もう恐怖と憎悪で胃がよじれる思いでした。そして私の足元までくると真っ白な小さな手で私の足首をガッと掴んだんです。もぅ私は涙で顔をぐしょぐしょにしながら必死で抵抗しました。
すると後ろから誰かにひっぱられて女の子の手から解放されました。すると女の子は気味の悪い笑顔とともにスゥーッと消えていきました。翌朝、私の足首には引っ掻き傷とあの子の手形があざとなって残っていました。