さて、今から50年ぐらい前に、九州の天草というところに24歳の女性が住んでいたそうです。この女性の下半身に奇妙なブクブクした皮下の膨らみが現れました。この膨らみは、徐々にですが、確実に増えていきました。誰も診たことのない不思議な膨らみに、意を決したある医師が、思い切ってメスを入れてみました。すると……
膨らみは皮下に出来た水の入った袋で、中に長さ数cmの白いクネクネした虫が入っていました。袋はたくさんあり、中にそれぞれ虫が入っている様です。早速、何という虫か調べられましたが、条虫(扁形動物)の幼虫らしいのですが、何の幼虫か、さっぱりわかりません。この虫は、恐ろしいことに、幼虫でありながら、人の体内で分離して増えているようです。
どこから来たのか、幼虫は人の体内に入り、人固有の寄生虫でないためか成長せずに皮下をさまよい、そして自分の周囲に水の入った袋を作り、中で植物が発芽するように枝分かれして増殖し、増えた幼虫はまたさまよい増殖する。治すには、一匹残らず手術で取らなくちゃいけませんが、すでに大変な数だったらしく、残念なことにその患者さんは亡くなってしまいました。
まさに、蟲の化け物……。ヒトを喰い尽くす虫と書きましたが、実際に人を喰っているわけではないと思います。しかし、増殖する虫が全身を這い回れば、大変な臓器出血か臓器不全を引き起こすのは必定で、間違いなく命が危ない疾患です。
1990年、50年近い沈黙を破って、芽殖孤虫は忽然と東京に現れました。さまざまな感染経路が考えられ調査されたそうですが、結局、虫の正体も感染経路もはっきりしないまま、今日を迎えています。その後、報告はありませんが、次はいつどこでこの虫は現れるのでしょうか?感染経路が分からない以上、あなたでないと、誰も言えないのです……
芽殖孤虫、今の所「皮膚科」で見つかることが多いそうです。虫さされ程度のポチッとしたふくらみで、赤みもかゆみのないのですが気になって皮膚科に行ったところ、芽殖孤虫であることが分かるといったケースが相次いでいるようです。当然ながら皮膚科ではどうすることもでいないので、然るべき医療機関に送られるわけですが、それは皮膚科の医師が芽殖孤虫の症例を知っていた場合の幸運なケースで、ほとんどの場合は、何らかの虫刺されやかぶれなどと診断されてしまい、芽殖孤虫とは気づかないままなんだそうです。
またそれ以上に、痛くもかゆくもなく、赤くもなってないごくごく小さな腫脹程度では、せいぜい市販薬を塗ったりするくらいで気にしない、気づかないという人がほとんど。寄生から増殖を始めるまで約三ヶ月、最近妙なポツポツができたという人はいませんか?