私の趣味は、人形の収集です。
ビスク人形はもちろん、バービーちゃんなどたくさんの人形をコレクションしています。その日も、新しいコレクションを増やそうとネットのオークションサイトをチェックしていました。色々な人形が並ぶ中、見たこともない、どこか拗ねた表情の人形が目に止まりました。
その人形は球体関節人形で、ボディは既成品ですが、ヘッドは出品者が作成したものだと説明されていました。洋服やウィッグまでセットでついてくると書かれているにもかかわらず、値段は低価格です。私は迷わず購入ボタンをクリックし、無事にその人形を発送してもらうことができました。予想よりも早く届いた人形は、思ったよりも大きいダンボールで届けられました。
ダンボールを開けると、プチプチでしっかりと梱包された人形が入っています。人形を傷つけないように丁寧に梱包をはずしていると、うっかり手をすべらせてしまったのか、ごろりと人形の頭が床へと転がり落ちました。膝の上で作業をしていたので心配するほどの高さではなかったとはいえ、傷がついていたらどうしよう、と私は頭を拾い上げてしっかりとチェックします。
パソコンで見た写真よりも生き生きとした表情のその顔は、やはり拗ねたように唇をとがらせていました。伏し目がちな瞳は、ガラス製とは思えないほどにうるうると輝いています。突然、ずれていたウィッグがするりと頭から落ちた時、私は背筋がぞっとしました。人形の後頭部に、赤黒いインクで「良子」と書かれていたのです。
なぜか鳥肌がたつような恐怖を感じてしまい、私は急いで人形の頭を体につけると、棚の中にしまい込みました。なるべくその人形を見ないようにして毎日を過ごしていたのですが、私の日課は人形の手入れです。棚をみない訳にもいかず、奥にしまいこんでいたあの人形も手入れしないと、と思って手を伸ばし、私は後ずさってしまいました。
奥におしこんだはずのあの人形が、棚の一番前に出てきていたのです。なんとなく、その日は人形の手入れをする気になれず、私はそのまま布団に潜り込みました。考えないようにしようと思っても、目をつぶるとあの人形のふてくされた表情が蘇ります。私は心を無にして眠るようにつとめました。
その晩、息苦しさに目が覚めました。目を開けると、妙に黒い天井が見えます。電気をつけようとして、体が一切動かないことに気が付きました。 腕に力をこめようとした時、顔中にぞわっとする感触を感じ、思わず息を呑みました。
よくよく目をこらしてみると、黒いと思っていた天井は、天井ではありません。切り揃えられた黒髪が、私の顔に触れるようにして上から垂れ下がっていたのです。その黒髪の奥からは、あの潤んだ瞳がじろりと私を睨みつけています。はらいのけようとしても、腕は動かず、次第に息も苦しくなってきました。
徐々にその瞳は私に近づき、黒髪が首や胸にも絡みついてきます。息苦しさは更にひどくなり、心臓が締め付けられるようにギリギリと痛み出します。額にぺたり、と冷たい感触を感じました。
「私と交換しようよ」
子供の声が頭に響き、私は気を失いました。気が付くと、朝になっていました。
まだ顔に残る髪の毛の感触に震えながら、ふと横をみると、あの人形が床に転がっています。あまりの恐怖に声も出ず、私は震える足でなんとか部屋からとびだしました。もう一刻も早くあの人形から距離をおきたいという気持ちが強く、私はあの人形を燃えるゴミとして捨てました。
よくある怖い話みたいに、家に戻ってくるという事はありませんでしたが、あれ以来部屋には長い黒髪が見つかるようになりました。私の髪は茶髪で、しかも短く切っているので、一体どこからその髪の毛が出てきているのかはわかりません。今は一刻も早く、この部屋から引っ越すことだけが願いです。
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ジャンクにしてあげる