ある墓地には、名前の刻まれていない墓石が一つだけありました。
肝試しで墓場に来ることが多い子供たちは、それを「名無しの墓」と呼んでいました。ある時から、その墓場は町の不良グループたちの溜まり場となり、彼らは毎晩バイクを乗り回し、騒音をまき散らしていました。
しかし、それがある時からピッタリと止んでしまいました。そのグループのメンバーの一人と顔見知りだった男性は、事の経緯を聞いてみました。不良メンバーの一人は顔を青ざめさせながら口を開きました。
ある晩のこと、いつも通りに墓場に集まっていたメンバーの中の数人が、墓場で肝試しをすることになりました。彼もその一人です。その奥にある「名無しの墓」まで来たメンバーは、名前が刻まれていないそのお墓を見つけ、蹴ったり貶したりと、随分と罰当たりなことをしたそうです。
その数日後、メンバーの一人が事故で亡くなってしまいます。その更に数日後、また一人亡くなってしまいます。残ったのが彼ともう一人になったとき、そのもう一人の彼はこう言ったそうです。
「呼び出されたから行ってくる。もし、俺に何かあったら、お前はあの墓に行くなよ」
その人も翌日帰らぬ人となりました。
メンバーが相次いで他界していく中、彼が自室で一人震えているところに1通の手紙が届きます。差出人は不明、手紙には「名無しの墓まで来い」と書かれていました。無視してその手紙を捨てても次の日にはまた同じ手紙が、そのまた翌日にも、と5日繰り返したところで彼は「名無しの墓」まで行く決意をします。曇り空、風が吹いている中で彼が「名無しの墓」まで来て見たものは、名無しだったはずの墓石に、自分の名前が刻み込まれているところでした。
彼は恐ろしくなって、土下座して謝りました。
「許してくれ!もう二度とあんなことはしない!墓で騒いだりしない!殺さないでくれ!」
しばらく謝り続けた彼が顔を上げると、墓石に刻まれていた名前は消え、「名無しの墓」に戻っていました。それ以来、不良グループは解散し、彼もまっとうな人生を歩み始めたそうです。
あの墓が誰の墓なのかは最後まで分かりませんでしたが、死者の呪いか、あるいは墓石そのものの呪いかのどちらかだろう、と彼は言いました。