随分前だが一人旅をしていた頃。山奥のしなびた感じが好きで、道の許す限り車で入り込んだりしていたが、やたらと入り組んだ山道にはまって迷った。貧乏でナビもなく、地図は縮尺が粗くて使い物にならない。おまけに天気も荒れてきて山に靄がかかって見通しも悪かった。
最悪、ひと晩過ごそうかなーと暢気に構えて、勘に任せて走っていたら唐突に集落に当たった。小さいながらも畑もあって、生活感はある。こりゃラッキーだわと人を探しつつゆっくり走っていくと、右脇の斜面でなにやら作業しているおっさんがいたので、道を尋ねた。
おっさんが言うには、このまま道を登っていけば峠伝いに山向こうの県道に出れるというんで、礼を言って谷沿いの細い道を走った。でも、行き止まりになってしまった。道が途切れた所はやや広くなってたんでかろうじてUターンは出来たが、急斜面に粗末な祠があった。
覗いてみると、てっかてかに磨きこまれた楕円形の扁平な石が祀られていた。なにやら難しい経文みたいな文字が内側の板壁に墨でびっしり書いてある。薄気味わりーなあと思いつつ引き返した。見かけたらおっさんに皮肉のひとつでも言ってやろうと集落に戻ると、おっさんがこっちを見下ろして、なんともいえない薄ら笑いを浮かべていた。ムカつく代わりにものすごい悪意みたいなのを感じたんで、黙殺して通過した。
苦戦した末になんとか迷路みたいな林道の巣を脱出したが、あれから体調が全く芳しくなく遠出もしていない。正月に例年通り家族で寺に詣でてのんのんしてもらったついでに、四方山話がてらいきさつ話したら、一年間肌着を預けろと言われた。ありゃ何だったんだろか。
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山奥の「ひなびた」感じ、ですかね。
肌着預けた後、体調に変化あったんかね。そこが、皆が聞きたいとこ。