とある日、もう5年ぐらい前になりますが、都内から千葉の海に行くのに友人3人で夜中に待ち合わせをして、日が出る前に出かける事になっていました。夜中と言う事もあり、とても早く千葉県内に入る事ができました。コンビニで3人でジュースを飲みながら休憩していると、友人Aが言い出しました。
A「ねぇ、近道しない?」
私「近道って?」
A「この山を越えれば、ぐるっと県道をまわらなくてもすむよ」Aは地図の山を指し言うのです。その地図の山の道を見ると、途中途中で道が途切れています。とても細い道なので、書き記されていないだろう、と思いました。
友人B「せっかく早くついたから、このまま近道できたら早くついてゆっくり出来るかもね」
なんとなしに意見がまとまったので、その名前のない山を渡って行く事になりました。はじめはその地図の道通りに進んだのですが、案の定途中から道幅はぐんと狭くなり、もう車一台正面からくる事になれば、何十メートルとバックで戻らなければ行けないほど狭く、舗装されていない道になって行くのです。先ほどまで見えていた、お昼はのどかな光景だろう田んぼや畑も次第になくなり鬱蒼とした竹林や真っ暗な森の闇が広がるのでした。私達はどれぐらい走ったのでしょうか。もう1時間は山の森で迷っていました。Uターンしようにも、する道幅がありません。山の道に従い、ただ上へ上へと登っていくしかありませんでした。
女3人と言う事もあり、はじめは楽しげに話していたあれこれ、仕事場の愚痴、他愛のない話が途切れ途切れになっていきました。段々と、恐怖感が湧いてきていたのです。道も分からない、舗装もない、この真っ暗な山の山頂近くで、もし車が止まってしまったら私達は、闇の中を手探りで彷徨う事になってしまう…。
しかし、それを口にする事はとても恐ろしく私は言えないでいました。2人の友人達も同じだったろうと思います。山の道なりに、そして車でも入れそうな道を出来るだけ選択し進んでいくと、とうとう行き止まりにぶつかりました。その先には、大きな門と何かの建物。門の前に名が記されていたかどうかは覚えていません。なかったのかもしれないし、忘れてしまったのかもしれません。私達は、もう何とも言えない恐怖で固まってしまい、妙な明るい声でどうでも良い話をしていた事だけを覚えています。その頃には、すでに朝日が上がっていました。そこはぎりぎりにUターンできそうだったので、私達は急いでUターンをし元来た道を下っていきました。
B「何か…怖かったよね。」
私「やっぱりそう思ったよね…」
A「…。」
周りをふと見ると、朝日で照らされた竹林が、真緑色に見えました。左右緑色に見える光景は異様で、ホッとしたのもつかの間、また恐怖心で首が痛くなりだしました。
B「A、ちょっとスピード出しすぎてないかな?下りは危ないかもよ」メーターを覗くと山の車幅ぎりぎりの下り坂にも関わらず、結構なスピードが出ていました。
私「ごめんね。運転して疲れたよね。私変ろうか?」
A「…。」
Aはスピードを一向に緩めず、真正面だけを向いているのです。訳も分からぬ胸騒ぎがして私達(私とB)二人はあたふたするだけでした。しばらくし、平らな道になり、舗装されている畑の道に戻ってきました。するとAは
「何かいた…。あの細い道から行き止まりの道に行くまで、何か怖かったけどUターンして戻って降りてくる時は確実に何かいたよ。車の後ろに大きな影があった。だから私、ルームミラーを見れなかった…。普通じゃない、何かすごく怖い感じの…言葉では言えないよ。」
私達は、もう居てもたってもいられなく、身の置き所がないと言うか、3人が3人とも同じ恐怖を感じていた事に、それもまた恐ろしくなりました。
公道に出て、私達は山の中で4時間ほど迷っていた事に気付きました。時間を気にする事がなぜか分かりませんが、私達はすっぽり抜けていたのです。すこし安心し、冷えた体の中があたたかくなり始めたその瞬間。
ガツーーンと大きな衝撃音と振動。一瞬何が起きたか分からずただ、「きゃぁー」とか「わー」とか「何!??」と叫んでいたと思います。後ろの車の不注意の接触事故でした。事故と恐怖心の因果関係は分かりません。でも私達はとても恐ろしく、車を清めに行きました。当然、当初の予定の海はやめました。とてもそんな気分ではもうなくなってしまっていたのです。読んでくれた方、ありがとうございました。