オレの曾爺ちゃんの話を書いてみようと思う。と言っても、曾爺ちゃんはオレが物心付く前に死んでしまったので、爺ちゃんに聞いた話なのだけれど、更にそれを思い出しながら書くので、辻褄合わせとかで多少脚色もするし長文なので、色んな事をごかんべん。
オレの曾爺ちゃんは坊主だったらしい。というか、曾爺ちゃんの代まで坊主の家系だったそうだ。そんでもって、曾爺ちゃんは霊感(坊主だと法力か?)があったらしく、除霊やら鎮魂やら何かと有名だったらしい。でも、ありがたい崇高な霊力者とかって感じではなく、変な能力はあるけれども、普通の多少目端の利く人だったようだ。そんな曾爺ちゃんには、人づてで何かとオカルトチックな依頼が来るらしい。それで旅に出て家を空けることが多く、爺ちゃんも寂しい思いをしていたようだ。いつも曾爺ちゃんが旅から帰ってきたら、土産話を要求するのだが、曾爺ちゃんは、大抵当たり障りのない話ばかりをしていたそうだ。まぁ、怨念やらの絡みになると、色恋沙汰や依頼者の恥部となる話になるのだから、口は堅かったのだろう。
前置き長かったけど、数少ない旅の話の中から、
坊主を辞めた原因になった時の話。
そんな曾爺ちゃんに、ある日どっかの地方から、羽織袴の名士っぽい人が訪ねてきた。曾爺ちゃんは見た目で『祟られている』って判ったらしいが、そんな事はおくびにも出さずに、応接間に通して何事かと聞いてみたらしい。その人は、「某県の何処其処で何々をしています誰々です~」みたいな話を丁寧にはじめ、話し口から、名主っていうか纏め役みたいな家系って曾爺ちゃんは感じた。その時に曾爺ちゃんにお願いしたのは、不幸な死に方をした女性の供養って位だったそうだ。曾爺ちゃんは、この人は隠し事が多いな~等と思いながら、多少身の危険を感じたらしい。霊的な危険って言うより、殺しとかにこの人の家の者や知り合いが関わったのが原因じゃないか、と感じたそうだ。それだと、場合によっちゃ自分の身も危険だし。取り敢えずその人には、多少準備がかかるし疲れたでしょって言って、2・3日家に泊めて、その間に、その地方の議員さんやら親分・警察署長あたりの名前を調べ、知人に紹介して貰って実際に電話したりして、繋ぎをつくったりしたそうだ。なかなか世俗チックな曾爺ちゃんだと思う。
そんな対人の下準備の後は、今度はそれなりにも準備をして、「じゃあ行きましょうか」って事で、その人の案内で地方に向かったそうだ。地方に着いたら、「そう言えば●●先生はここに居られるそうだから挨拶したい」とか何とか言って、先に手を回しておいた議員やら署長やら親分に挨拶に行き、自分に変に手を出したら後々厄介ですよ~って臭わせておいてから、その人の家に行くことにしたそうだ。その人の家は、街から外れて幾つか山を越えた山間の村で、村に近づくにつれて嫌な感じが強くなってきたので、「これは村ごと祟られているな。女一人を供養して済むのかね?」って思ったらしい。
村に入ると、出会う人がどいつもこいつも祟りの影響を受けている。流石に曾爺ちゃんも、村ぐるみの事件っぽい臭いがしてきて嫌になってきたが、こんな辺鄙な場所から逃げ出すのも大変だと思い、一応その人の家で詳しい事情を聞いてみることにした。
その人の家は結構大きかったらしく、屋敷って感じで、曾爺ちゃんの『村の纏め役っぽい』って予想は当たっていたらしい。庄屋の家系の当代ってところ。屋敷は門に入る前から恨まれている感じが臭いまくっており、かなり業の深いことをしてしまった家系だと思いながら、家に入ったそうだ。
部屋に案内されて改めて話を聞くと、供養して欲しい女性は3名。曾爺ちゃんは、屋敷の人間がその3名の死因に関わっていると思ったので、その辺は深くは聞かずに、村に何か起こっているのか聞いてみた。どうやら村では、殺人が連続して起こっているらしい。しかも、事件や犯人を警察に届けていない。犯人は土蔵に閉じこめたり納屋に縛ってあったり、死因も事故死・病死って事にして、医者に見せずに土葬にするなど、かなりヤバイ感じの処置をしていた。現代なら(多分当時でも)死体遺棄&不法逮捕監禁で引っ張られるようなやり方をするからには、村人を外に出したくない理由があると思えること。
曾爺ちゃんは突っ込み所が多すぎるのをグッと我慢(自分の身の為)して、まずは犯人の一人会って見ることにした。多分この屋敷にも居るのだろうが、当代に案内されたのは、屋敷から少し離れた農家の納屋だった。納屋の中はジメっとして、糞尿の臭いが酷く、中には怯えた感じで縮こまっている女性が一人柱に縛られていて、曾爺ちゃんは、憑かれていたなって思ったらしい。曾爺ちゃんは、この女性はもう危険じゃないことを教え、「暫く安静にしていたら今より良くは成るだろう」って言った。そして、殺したのは多分旦那か子供だなと感じて、可愛そうに思ったそうだ。さらに、この人への祟りはもう終わっているが、多分完全に治ることは無いだろうって思えたらしい。
曾爺ちゃんは、「供養はするが、あなた方は供養でどうにかなると思っているのかね?」って話したらしい。しかし、他に当たっても、祟りがあってからは供養さえ怖がってしてくれないから、お鉢が回ってきたらしく、どうしても供養はして欲しいって事で、曾爺ちゃんは供養することにした。お墓の位置は、村外れの山道を進んで行った山にあるらしく、昔はそこに寺が有ったが、廃寺となった後は、そのまま村の墓地として利用しているとのこと。案内されてそこに近づくにつれて悪寒がしてくるし、案内していた当代はどんどん顔色が悪くなってくる。これは半端じゃないって思い、とりあえず墓の方向に向かって経をあげて様子を見たが、どうにもならない感じなので、ある程度の道筋を聞いて当代を帰したそうだ。
当代に活を入れて返した後に暫く進むと、何かにすれ違った。曾爺ちゃんには姿は見えなかったが、多分彼女らの誰かだろう。その気配は当代を追うわけでもなく、また、自分を追う様にも感じなかったので、気を落ち着けながら先へ進むことにした。山の斜面を這うように進む山道を歩いていくと、開けた場所があり、斜面にそって卒塔婆や墓石が並んでいるので、ここがその墓地だろうと感じて中に入った。すると、多くの盛り土の墓の内に、この墓がそうと判るくらいの存在感がある墓が3つあったらしい。
曾爺ちゃんはそこで経をあげて供養を試みたが、ずっと空気が重く、どっからか視線をずっと感じる。「無理だな~業が深い」と思って、屋敷まで引き上げたる事にした。屋敷まで戻った曾爺ちゃんは、当代に「供養試みたが、このままでは祟りは収まらない」と言った。そして、「あなた方は業が深いので、言えないことも多いと思う。三人を死なせたのにも関わっているだろう。しかし、祟りが無かったものが何故祟る様になったのか、何でも話せる事があれば言いなさい」と言ってみたそうだ。
当代も言い辛かっただろうが、話した内容はこうだった。父にあたる先代は、乱暴で狡猾な人物だったそうで、若い頃から問題ばかり起こしていたそうだ。それでも、先々代が存命の内はまだマシな方で、先々代が亡くなると、素行に歯止めが効かなくなった。多くの村人を巧妙に利害で巻き込みながら悪事を繰り返し、村では誰も逆らうことが出来なくなってしまったそうだ。
祟っている3名の死にも、先代は関わっているらしい。それから先代は、三年前に実の妹に殺害された。多分これが、最初の祟りじゃないかとのこと。そして祟りで死ぬ前に、あの3名の女性と関わりのある男に罪を着せて殺している。もちろん私刑だ。それ以来村では、身内や血縁者を殺してしまう事件が時々起こるようになった。曾爺ちゃんはこの話を聞いて、その殺された男をまず供養しないとこの祟りは収まらないと思ったらしく、墓の場所を尋ねた。当代の答えは、「墓はない。埋めただけになっている」と話し、埋めた場所に次の日に行くことになった。曾爺ちゃんは、その晩は屋敷には泊まらなかった。明日の事を考えたら、ここで気力を消耗したくないって気持ちになったらしい。
次の日、当代と村の男数名に案内されて、その男の埋まっている場所に出かけると、そこは村はずれの藪の中だった。ジメジメと腐った枯れ草が覆い被さり、枯れ草の隙間から育ちが悪い感じの雑草が生えている。そこに高さの余りない盛り土があり、近くには申し訳程度の供え物が朽ちていた。曾爺ちゃんは、「ちゃんと埋葬し直して供養しなといけない」と当代に言って、掘り返させた。
大して掘り返さないうちに死体は現れ、出てきた死体はやはり普通の状態ではなく、無惨に切り刻まれていて、 五体ばらばらどころか肉片がいくつも出てきたらしい。ただ不思議な事に、三年前に死んだはずの死体は、腐敗せずに湿り気を帯びていたそうで、曾爺ちゃんは、呪物になっているなと感じたそうだ。
この辺の詳しい理屈は爺ちゃんには分からないらしいが、多分殺された男は3名の女性を弔っていた者で、そのことで3名の霊的な干渉良くも悪くも受けていた。しかし殺された後は、本人の無念も重なって3名の祟りの呪物化したのではないか、って感じの話をしていた。とにかく曾爺ちゃんは、男の遺体から頭髪の一部を切り取った後は、全てカメに詰めて埋め直し、経をあげて供養した。供養といっても、成仏させた訳ではないらしいが、成仏させるわけにもいかなかったので、その地で安息できるように色々したようだ。頭髪の一部を切り取ったのは、業が深すぎる件なので関わった自分への祟りもあると思い、この男を自分も供養しないと危ないと思ったかららしい。
曾爺ちゃんは、当代にこんな注意をして別れたそうだ。
・あなたの直系は、子々孫々まで男の命日の供養を欠かさないこと。
・3名の墓を除いた墓地にある他の墓を、村の近くに移すこと。
・墓を移したら、誰も3名の墓に近づかないこと。
・祟りや3名の霊が現れることがあったら、男の墓に供物を捧げ助命の願をかけること。
曾爺ちゃんは村にはあまり長居したくなかったそうで、旅費位にしかならない報酬を貰った後は、来たときと同じように、地元の議員さんやら有力者に挨拶をすましてから、一人で家に帰った。そして、家族に男の髪が入った箱をみせて、この話をしたそうだ。もし自分が祟りで倒れた場合に、この髪の供養を続けて貰わなければならないから。
この件で曾爺ちゃんが坊主を辞めなくてはならなかった理由は、曾爺ちゃんがやった方法は、呪い返しに近い方法であって、それがお偉いさんにしれた時に、世話になった上司?の立場をかなり悪くしてしまったからだそうだ。何か歴史物では、お偉い坊さんが権力者に頼まれて呪ったりする話があったりするが、下端の坊主が何かすると厳しいのかな?まぁ大体こんな感じの話。文章が稚拙ですまない。
うちの家系には祟りのようなのは無いっぽいです。髪の毛は結局、話に出たカメに入れて埋めたらしい。話に書いた当代が、その男の人の墓を盛り土じゃなくて墓石やら置いて綺麗に作り直した時に、当代の家系が供養をちゃんとやってるから、それなら呪物化した物をあまり家に置くのは良くないって事で、曾爺ちゃんが戻したらしい。犬神とかの話からすると、呪物を祀ってると地獄行きらしいですからね。