林業従事者が体験した怖い話

深い山の女性二人の声

山で枝打ちをしていると、20mほど下の方で二人連れらしき女の話し声がする。楽しそうに笑っている。たまに鉄砲撃ちが犬を連れて入ってくる事はあっても、一般のハイキングのオバサンが歩けるようなところじゃない。もちろん道なんかない。風に乗って遠くの人声が聞こえてきたのでは、と思ったが、尾根にもハイキングコースはない。これは相方も聞いていて、気味悪がっていた。

こちらを見つめる小柄な老人

夏の草刈の時に、現場のすみの方で、小柄な老人がジッとこちらを見ていたことがある。好意も悪意も感じられず、ただ仕事振りを見ている、というカンジだった。オイラが会釈をしても全く意に介さないふうで、相方に「あのジイサン知ってるかよ?」と訊いたんだが、見えてたのはオイラだけだった。その日は小雨のそぼ降る梅雨近い日だったが、ジイサンは4~5時間はそこにいたろうか。百姓のような身なりで、古くからの地元の人、という印象だった。

耳元で囁く声

別の草刈の現場ではこんなこともあった。敷地の境近くを刈っていると、境界の向こうの隣の敷地から草刈機の大きな音がする。エンジンの調子が悪そうな大ぶかしの音。でも隣の筆には作業者なんか入ってなかった。その音はすぐやんで、それっきり聞こえなくなったので、空耳だろうということにして作業を続けていた。そのうち煙草が吸いたくなったので、きりのいいところで休もうと考えていたら、耳元で誰かが「一服だんべぇ」とささやいたのだ。あわてて相方を探すと、はるか遠くに草刈機をふるう姿が小さく見える。とても声の届く距離じゃない。「わかったから話しかけねぇでくれ」と、思わず声に出して言っちまった。

そのあとも「一服だんべぇ」は、3~4回オイラにささやき続けた。山を降りて、ふもとの部落の人に「昔誰か作業者が死ななかったか」と訊いてみたが、そういうことはなかったそうだ。あの声の主は誰だったんだろう・・・。

さらに別の草刈の現場では、『3人』に囲まれてかなりパニクった。その時ばかりはすごい悪意と害意を全身で感じた。一体何が気に入らなかったのか解らんが、『何かされる』と感じたオイラは、「仕事してんだよっ、忙しいんだよっ、たのむから邪魔しねぇでくれよ!!」と大声で怒鳴った。自分が呼ばれたと思った相方は、エンジンを止めて「呼んだかぁー」と言った。真夏の昼下がり、気温は40度を越えていたが、冷たい汗をベッタリかきましたとさ。

メールアドレスが公開されることはありません。