【登山の怖い話】遭難中に聞こえた女の声

下山しようにも、大きくルートから外れていることがわかった。コンパスが狂いすぎていたのだ…。3人は焦りながらもとにかく下山を考えていた。とにかく降りねば、この軽装では夜はもたない…。滝の音が聞こえた場所に風の音が入り交じり、更に風の中に女の声がぅうう~という感じで聞こえた。空耳と思い、誰もその事に触れなかったが、たしかに啜り泣くような悲しい声がしていた気がする。風は冷たくなり、星を頼りに下山を続ける。確かな下山ルートではなく、けもの道のような所を、とにかく標高が下がる方へと降りていく。滝の音は聞こえなくなったのに、風の音の中に女の声は聞こえ続けてる。たまらず、山鳴りかな…。ひとりが口を開いた。俺は、何も聞こえないよ。とシラを切った。そうしないと、みんな恐れてしまう。山鳴りなんかじゃないよ、聞こえるよ、俺も。もうひとりも口を開いた。先頭をいく友人が、立ち止まった。

おまえら仲間だよな?

あぁ、そうだけど。

じゃあ、絶対に逃げるなよ。
あぁ、逃げないよ。でもなんで??

ゆっくり下を見てみ。

なんも見えない。どこを見ればいいんだよ?

俺の足だよ。

足?あるじゃん。

そうじゃないよ、よく見ろよ。

うわぁぁあああ!!!

そいつの足首を地面から出た女の手がつかんでいた。

ぎゃー!逃げ出す2人。まさに地獄絵図だ。3分間ぐらい走っただろうか?灌木に身体をぶつけながら、どこをどう走ったかわからない。とにかく走った。得体の知れない手首に、足をつかまれた友人は、オーイ!オーイ!と叫んでいたが、いつしか聞こえなくなった。いや、聞こえない場所まで逃げたのかも知れない。

翌朝、夜も白みかけた頃、まだ俺たちは生きていた。生きていたというより、何かに憑かれて彷徨い続け、いつしか入山事務所まで戻ってきた。一人残された友人が心配だ。遭難したにしろ、登山ルートを間違えているのだから、説明できない。しかし、消防団と警察の捜索隊を出してくれた。自力で下山した情報はついに入らないまま、午後4時、捜索は打ち切られた。翌朝は6時から捜索が始まった。そいつの両親も麓まで来ていて、俺たちは会わせる顔がなかった…。そりゃそうだ、恐怖のあまり、友人を見捨て、俺たちだけが逃げたのだから。変わり果てた友人の姿が発見されるのに、そう長い時間はかからなかった。登山ルートからほんの少し離れた、通称『賽の河原』と呼ばれる谷川に頭を突っ込んだ状態で、死後20時間以上経過した状態で発見された。

しかし、もっと驚いたのは、友人の傍らにあった、死後2年以上経過したと思われる女性のオロクだった。

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