友人の話。彼の実家は山で棚田を耕している。つい先日里帰りした折、「最近は熊や猪がよく出るので大変だろう」とお祖父さんに振ったところ、何ともおかしな答えが返ってきた。
「熊やらは大変だけど、気をつければそう怖くはない。本当に怖いのは、歌う案山子だ。」
田で作業をしていると、何処からともなく歌声が聞こえてくることがあるのだと。目を上げると、遠くでユラユラとハミングしている、細い影が見えるらしい。ひどく気味の悪い代物なのだそうだ。そんな時は作業に終いをつけ、すぐに引き上げるのだという。この時、後ろを振り向いてはいけない。何かと厄介なことになる。
どう厄介なのかは、つい聞きそびれてしまった。
「案山子ってのは、ちゃんと供養してやらないとダメだ。」
お祖父さんはそう言って、ちびちびと酒を飲んでいたそうだ。