俺、子供時代によく遊んだ子がいたんだわ。近所の古い家に住んでる子ってことしか覚えてないけど、白っぽい服ばっかり着てた気がする。田舎なもんだから、ゲームとかじゃなくて鬼ごっことかザリガニ釣りみたいなのばっかでな。親は都会の方にいて、ばーちゃんかなんかと一緒に暮らしてるって記憶してる。けっこう仲良かったはずなんだけど、小学校の3年生くらいから遊んだ覚えが全然ないの。名前も覚えてないけど、別の学区の子とか、友達の友達だと名前も知らないまま遊んでたから、そんなもんかなと思ってた。
そんで、中学入っちゃうと、昔の友達ってなんかこう、会ってもどうしていいかわかんないし、そのまま忘れてた。そんで、連休前倒しで久々に田舎に帰ったんだ。そん時俺の子供時代の話になって、「そういやあの家に住んでた子、今どうしてんの?」って聞いたのね。そしたら俺のばーちゃんとおかんが、「あの家はずっと空き家で誰も住んでない」って言うのよ。 でも俺、その子が空き家のはずの家から出て来た記憶があるのね。「あそぼー」って声かけて、「うん」って駆け出してくる記憶がはっきりあるのよ。 でも家族はありえないって言うわけ。
怖くなったんで、ずっと地元にいる幼馴染に会いに行って、その子の話をしたんだ。そしたら、そいつも「そんな子知らない」って言うんだよ。そいつとも何度も遊んでるはずなのに。うわーオカルトかよと思ってガクブルしてたんだけど、帰る前日に最寄り駅で、同い年くらいの男にいきなり「○○君だよね」って声かけられたんだわ。誰だろうと思ったら、あの家のあの子だって。なんだよ実在してたんじゃんってそん時は思ったさ。
連休のせいでバスの本数がなくって、歩いて帰りながら昔話に花咲かせたよ。「今何してんの」って聞いたら、「病気で何もできない」みたいな答えだった。病気で学校ほとんど行ってなかったみたいな話も聞いた。それ以上深く聞けなくて、俺がお祭りでゲットして分けてあげたスーパーボールの話とか、ヤギに紙食わせようとして襲われたとか、懐かしい話だけした。で、家の近くまで来たら、そいつ「じゃあ僕こっちだから」って、例の空き家の方に歩いてくの。「またね」って笑顔でバイバイすんの。なんか『そっち空き家だろ』って言えなくて見送ってたら、ちゃんと空き家の門の中に入ってったんだ。
でもさ、よく見たらその空き家、マジで空き家。窓に板とか釘で打ってあんの。壁も蔦這っちゃって緑色。ポストなんか落ちてどっか行っちゃって、四角い錆びの跡しか残ってないの。かなり怖くて即逃げた。家に帰ってから、あの家で変な事件とかなかったって家族に聞いたら、別にないって。でも、おかんとだべってた隣のおばちゃんが思い出したんだ。
俺が小学校入る前に一回だけ、あの空き家を別荘みたいにして、夏の数日だけ家族連れが泊まりに来てたって。俺、そん時にあの子と遊んでたらしい。でも家はその後すぐ売られちゃって、家族連れとあの子が来たのはその一回きりらしい。いや、俺小学校入ってからもその子と遊んだって。ランドセル背負ってたもん、給食袋に捕まえたカエル入れておかんにどつかれたもん、間違いねーよ。
帰る前に空き家に寄ってみたけど、門に鍵かかっててすごい錆びで開かなかった。あいつが開けた時は、すーっと普通に開いてたはずなんだけど。こえーので、今年の夏は帰郷しないことにした。