今ではほとんど寝たきりの私の実家の祖母ですが、若いころは霊感が強かったと母から聞いたことがあります。特に興味深かったのは、亡くなりそうな方や亡くなる前の方が夢見に立つということが何度かあったという話で、その中で聞かされた一つを紹介します。祖母がまだ小学生くらいの話です。
小学校の先生で、その人は剣道だったか空手だったか忘れましたが、とにかくそういったものの段位を持っている男の先生がいたそうです。彼は、子供たちからヤギひげ先生といわれているほど見事な白髭を蓄えていたそうです。ある放課後のこと、外から「しゅっしゅっ」とすり足をするような音が聞こえたそうです。最初は空耳だと思ったその音でしたが、ずっと「しゅっしゅっしゅっ」と何度も何度も聞こえてきます。しかし音の元を辿ろうとしてもどこから聞こえるのかわからなかったといいます。「不思議だなぁ。なんなんだろう」と思いながら、家路につきました。
その晩、夢にまたあのすり足のような音が聞こえます。その音は、どんどんと祖母の近づいてくるのだそうです。祖母は、その時漠然と「ヤギひげ先生が、やってたすり足みたいだなぁ。」と思い、その音の正体はヤギひげ先生だと思ったそうです。当時、祖母の田舎は町内で一番の庄屋さんで下宿なども営んでおり、ヤギひげ先生も祖母の実家にお世話になっていたそうです。そのため、集金などの付き合いがあり、門下生などに教えている道場にも集金にいくことがあったそうです。その時のすり足の音がとても印象的で、覚えていたのではないかということです。
次の朝、祖母の家に電話がかかってきました。電話の主は、道場の近所の人からでした。
「先生が、道場で死んでる。」
ヤギひげ先生は、道場で一人亡くなっていたということです。それも、胴着姿で…。その時、祖母は思ったそうです。「ヤギひげ先生が、亡くなったことを伝えたかったのだ」と。