「海は本当にいろんなことがある。」海に行き続けて45年、いまは兼業漁師の父の言葉です。今回は私と父が一緒に体験した話。
私が小学校3年の時、父と共に船で夜釣りに出かけました。湾外に出ると陸の明かりはもう見えなくなっており、その日は漁り火も少なかったと記憶してます。ただ月明かりか、夜は明るく海の真ん中に私たちだけがいるようでした。その日は本当に良く釣れたんです。一時間もしないうちに大漁になり私は「お父ちゃん、今日は明るいのに良く釣れるね」となんの気もなしにいうと(月が明るいと釣れないといわれている)、父は突然仕掛けを片づけ始め「うん、こんな日は早く帰った方がいい」と空をみあげました。その時初めて気が付いたんです。空に月が二つあったこと。「わぁ!あれなに?!」と私が叫ぶと、父は静かに「そんなこともある。もうあれを見たらいけん。中にはいってなさい」と私を船内に押しやるのでした。あれはなんなのかと改めて聞いてはいけない気がしましました。聞いても多分父は「わからん」というでしょう。この手の話は沢山父に聞きました。その都度いうのです。「そんなこともある。」と。