遭難者がでると温かくなる『人喰い石』

同僚の話。地元の山で行方不明者が出た。消防団に所属していた彼も、捜索に参加したそうだ。同日の夕刻、残念ながら不明者は遺体で見つかった。人が入らぬ森の外れで、大きな石の上にうつ伏せとなっていたらしい。まるで石に抱きついてそのまま死んだように見えたという。別の分団よりその知らせが届くと、年長の先輩が顔を歪めた。
「また人喰い石にやられたか」

どうやらその石は、地元ではそこそこ有名な代物のようだ。その近くで遭難した者は、大抵その大石に抱きついて亡くなっているのだと。それからしばらくは、石は人肌くらいに温かくなっていると聞く。死んだ人の体温を吸い取ったかのように。だから人喰い石と呼ばれている。案内してくれよと話を振ったら、彼は顔を顰めて「行きたくネ」とだけ答えた。

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