水面下の全身真っ赤な人影

釣り人に聞いた話。

小学生の頃の夏休み、かんかん照りの日射しに追い立てられるように山奥にある小さなダムの貯水池で、友人らと水遊びをしていた。




冷たく澄んだ水に潜ると、水面下に並んだ半身が立ち泳ぎしているのが見える。その中に長ズボンに靴を履いている奴がいた。不審に思って水面に上がると、見知った顔ぶればかりで皆が水着姿。もう一度潜って数を数えると、やはり下半身が一つ多い。靴を履いた足に近づいてから恐る恐る見上げてみると、水面越しに真っ赤な人影のようなものがゆらゆらと揺れていた。

全身をゾワリと包んだ寒気を合図に、慌てて水から上がると、まだ遊び足りない、と愚図る友人達を強引に説得して山を降りた。

その日の夜、山廻りをしている祖父に昼間の事を話すと今年の春にその山で見つかった遭難者の話を聞かせてくれた。
「…野犬にでも喰われたのか、結局腰から上しか見つからんかったな」
妙にのんびりとした口調でそんな事を語った祖父は、最後に
「お前は呼ばれたんやろう。ま、しばらくは山に入るな」
と、やはり訥々とした口調で締めくくった。

メールアドレスが公開されることはありません。