私の母が、母の祖母、つまり私の曾祖母から聞いた話です。私の母はずっと東京に住んでいます。私もずっと東京に住んでいますが、さすがに曾祖母の時分は、今のような町並みは無く、まだまだ夕方になればほとんど明かりも無かったそうです。明かりが無いだけでなく、あちこちに空き地といいますか、草むらというか、自然がわりとあったようです。
ある日、若い頃の曾祖母は近所までお使いに行っていました。帰り道、訪れた家でおはぎをもらったそうです。おひつ箱を風呂敷につつみ、持って歩いていたそうです。その時は既に夕方を越えて、暗くなっていたそうなのですが、幸い月が明るかったそうです。すると、曾祖母は妙な事に気がつきました。
「月が2つある?」
闇夜の空に、月が2つ出ていたんだそうです。その不思議に直面して、ぼーっと見とれた瞬間、もう時すでに遅く、手元にあったおはぎの風呂敷は消えていたそうです。もちろんその周囲を暗いながらも探したらしいのですが、見つからなかったんだそうです。
それ以来、曾祖母は、子供の母に「あれは絶対タヌキか何かだ」と悔しそうに話した、という事です。そんな事にムキになっていた曾祖母、その不思議な話に魅力を感じつつも、ムキになっている祖母にどこか飽きれている母の話し振りに、嘘があるように思えませんでした。