ある山の時代を越えた大天狗の祟り

地元はH県にあるど田舎で、中学校より高い建物なんて全くない場所だった。わりと昔から人が住んでいたらしく、△△民話伝っていう本が図書室に置いてあったのを中一の俺は見つけた。古い古い文章を現代語訳したものらしい。こんな、しょっぱくてつまんなそうな本だれが目つけたんだよwとか思いながらそれを読んでみた。だが内容は、俺の思っていたものとは違った。もっとつまらない、年寄りの武勇伝みたいなのとか、争いの間の様子とかがだらだら書いてあるだけかと思ってたんだが、書いてあったのは妖怪とか神様とかが出てくるような話ばかり。そのころクラスで怖い話が流行ってたんで、ここにあるそういう話持って帰ってやろうと思い本を借りた。家で読んでいると、俺のじいちゃんが声をかけてきた。「おお、それ、読んどるんか。天狗様の話あるじゃろう」と言ってきた。まだ読み始めたばかりだったので何言ってるのかいまいちわからなかったが、確認するといちばん最後の話は天狗の話だった。なーんだ天狗って、よくある話じゃん。と特に興味もなしに「ああ、あるねー。」みたいな適当な返事をすると、じいちゃんは隣に腰かけて話し始めた。(ここからの会話は具体的には覚えてないから、要点をそれっぽくして書くわ)

なんでも、天狗が出たのは俺の家のすぐ隣にある山。川とイチジク畑を隔てて、窓から見えるN山だ。そこに、天狗は天狗でも子天狗がいるらしい。大天狗の話からしようか。N山の大天狗は大昔から気が荒く、ちかくのM湾がよく氾濫していたのはそいつのせいだと考えられていた…というか、天狗のせいだというのはある種の固定観念のようなものだったらしい。村人全員が盲目的に信じていた。そしてある夏、今までとは比べ物にならぬ程の大洪水が起き、稲やらなんやらが全部流されてしまった。そのせいで年貢が払えず、慕われていた庄屋さんが都へ連れていかれる事態となってしまったそうだ。村人は怒り、となりの村から腕のいい僧を呼んで、山に火を放った。林業や猟をしていた人も多かっただろうし、生命線の山を焼くなんてと思ったが、村人たちはもう後に引ける状態ではなかったのだろう。計画はうまくいった。

天狗はその翼に火傷を負い、落ちてきたところを村人に処刑されてしまったそうだ。いつ頃の話かはよくわからないが、年貢という言葉がでてきたから多分江戸だろうな。ここまでが、あの民話伝にあった話。ほんとうに怖いのはここから。天狗の話なんてしってる子供がいなくなった、争いの後のある年の夏。N山に行った小学生男子数名が、夜になっても帰ってこない。当然大捜索…といっても町の人たち駆り出して山とか川とかを探す程度だが、懸命に探された。そしたら見つかった…ずっと遠くのN川中流で。不思議なのが、気を失ったその子たちはカエルの上半身にまみれてたこと…。

その事件のあと、似たような事件が続いた。夜のあいだに漁船に大量の鳥のふんがたまってたり、カラスが小学校の正門にずらっと並んだり。こんなのが一か月ほど続いた。いつのまにか、天狗の噂が流れていた。処罰された天狗の、怨念だ  と。決定的になったのが、町のJ寺の目の前で起きた事件。田んぼのあぜや用水路に大量の山菜や果物が積まれ、水がつまってあふれ出ていた。周囲には鳥の羽。その寺の住職は調査に乗り出した。山や犯行(?)場所をまわり、人々に聞き込みをしてみたり。代替わりしたばかりだったらしいから、伝承のことをしらなかったんだろうな。結果、N山の大天狗の話に行き着いた。ここから先はよく覚えていない。じいちゃんに確認しようにも、もう聞けない。住職が特殊な方法で子天狗の魂?をひきよせ捕らえた、みたいな話だったとうろ覚え。だが最期の子天狗についてのじいちゃんの言葉は鮮明におぼえている。

炎に焼かれながら、子天狗はカラスと人の断末魔を足して二で割ったような叫び声をあげた。そして周囲の、じいちゃん含む町民をにらみながら息絶えた。その場に居合わせた者は皆、山で行方不明になったそうだ。うちのじいちゃんも、認知症が進んだころ山へ散歩に行ってから帰ってこない…

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