【丑の刻参り】頭にロウソクを巻いた男

忘れもしません、あれは中学2年の夏のことでした。当時仲の良かったKとOと私の三人組で、よく色んな遊びをしていました。夏休みということで、私達はKの家に泊まりにいくことになりました。小さな田舎町で、親同士も顔見知りの関係なので、外泊を許してもらえました。中学生にとって、外泊は何よりの楽しみです。私達も例外ではなく、この日を待ち侘びていました。昼間はいつものように近所で遊び、夜になるとKの家でご飯をご馳走になりました。それから近くの公園で花火をしました。その後はKの部屋で過ごしました。Kの部屋は離れ(といっても真横ですが)にあり、私達三人だけの夜です。私達は深夜になるのを待っていたのです。

Kの家に泊まりに行くことが決まってから、夏の夜だし肝試しに行こうとOが言い始めたのです。私達の住む町は山に囲まれていて、その奥地に古びた神社があるのですが、あまり管理もされている様子もありません。神社の周りは何もありません。あるのは深い森だけです。昼間でも気味が悪いのに、夜に行ったらさぞ怖いに違いない、ということですぐさま決まりました。

Kの両親が寝静まり、時間はすっかり深夜になりました。神社の周りには街灯も何もないので、あらかじめ用意しておいた懐中電灯を手に、私達はこっそりKの家を抜け出しました。もしもKの両親が離れに来たときのために、『肝試しに神社に行ってきます』という書き置きも忘れなかったのは我ながら冷静でした。そもそも私は幽霊、心霊現象の類は全くといっていいほど信じていなかったのです。

神社まではかなりの距離があるため、私達は自転車で向かいました。神社があるのは山の方なので、登り坂がこたえます。普段は寝ているはずの時間ですからね。20分ほどかかったでしょうか、ようやく神社の近くまでやってきました。辺りはとっぷりと夜の闇に覆われており、真夏なのに森の中のせいかひんやりした空気が感じられました。私達はKの持つ懐中電灯の灯りだけを頼りに神社の方へと登って行きました。神社まで自転車では行けず、ここからは山道なのです。普段人が来ない場所なので、道の左右には草が生い茂っています。薄気味悪い雰囲気ですが、怖いもの知らずの私達なので、冗談を言ったり、脅かし合ってみたりしながら歩を進めていきました。

もうすぐ神社、というところで、今まで冗談を言っていたOが妙なことを言い始めました。
「なんか変な音聞こえない?」
耳を澄ましてみると、確かに聞こえてきます。歩を進めるにつれ、はっきり聞こえるようになってきました。固い音です。何か固いものを叩くような。周りの虫の声とは違う、明らかにおかしい音が神社のほうから聞こえてきます。誰かいるのかな?と思いましたが、こんな場所に、ましてこんな時間に誰かいる方がおかしいです。
「行こう」
と言ったのはKでしたか。正直かなり怖かったですが、2人に怖い、帰ろうなどと言えば馬鹿にされるのがオチです。三人ともそう思っていたに違いありません。神社には到着しましたが、音はその奥から聞こえてくるようです。息を殺して神社の横を通り抜け、裏に回っていきました。もう音はすぐそこです。

と、急に音がぴたりと止みました。懐中電灯の灯りは神社の裏手を照らし、そこに確かに人影がありました。人影は振り返り、こちらを見ています。驚いたのは向こうも同じだったようです。中年くらいの男性だったと思いますが、私達は一目散に逃げ出しました。その男性の頭にはロウソクが巻かれていたのですから。

後日ですが、昼間に三人であの場所を見に行ってみようという話になりました。あんな体験をした場所ですが、昼間ならばまだ気が楽です。それに、気になっていたので。神社の裏に到着し、あの場所を見てみると、やっぱりありました。ワラを束ねたものに釘が打ち付けられていました。それも何本も。私たちは本物の丑の刻参りを目にしてしまったのです。

丑の刻参りについて調べてみましたが、恐怖で戦慄を覚えました。
『丑の刻まいりを見られると、目撃者も殺してしまわなければならないと伝えられている』
あの時もしも逃げ出していなかったら…今でも丑三つ時になるとこのことを思い出してしまいます。

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