知り合いの話。造り酒屋をしている彼は、毎年の初めに、地元の神社に新酒を寄贈している。新年の儀が終わると舞台に青い養生シートが引かれ、その上で彼が持ってきた樽酒を木槌で開き、詣で客にお神酒として振る舞うのだという。
ある年、木槌の勢いが強すぎたか、酒が大量にこぼれたことがあった。慌てて拭き取ろうとした彼の目の前で、酒はスーっと独りでに流れ始めた。真横に一直線。そのまま舞台横まで、素早く流れて落ちる。驚いている彼に氏子のお爺さんが言った。
「なに、山へのお裾分けだ。気にするな。」
酒がこぼれた筈のシートの上は濡れておらず、舞台横の地面も同様だった。山から何か下りて来ていたのかな。そう彼は不思議そうに口にした。