昔、交野の山中に五八寸(ゴハッスン)と云う蛇がいた。胴周り五寸、長さ八寸、こう云う形の蛇だといわれ、もしこれを殺すと、捕った者は必ず死ぬと云いわれていた。
昭和初年の夏、枚方の春日に住む貧乏な酒飲みの男が五八寸を捕まえた。人から聞き出したある場所に酒甕を埋め、おびき入れて捕えた。男はそれを高津の黒焼き屋に売りに行った。高く買ってくれたが、帰りに主人がおかしな事を聞いた。
「何時頃、家に帰られますかいの?」
男は(妙な事を聞くなァ)と思いながら帰ると、家にたどり着くや否や、のた打ち回って死んでしまった。
その頃黒焼き屋では、素焼きの甕に移した五八寸を黒焼きにしている最中であった。この黒焼き屋は五八寸を殺すと、直ちに捕った男が死ぬと云うのを承知していた。しかし帰途の途中で死なれると、面倒なことが起きるので、家に帰った時刻を見計らって黒焼きにしたのだと云う。
五八寸は噂だけの蛇で、実際はいないと云う。しかし7、80歳の年代者には、実在を信じる者は少なくない。
「○●の山に五八寸がおって、団子みたいな形ィしとるんや。 嘘やないで、草の中におってな、毒の息を吹きよるんやで」