これは私の父から聞いた話です。
父の実家は山間の小さな村で、そこには変わった習慣があったのだそうです。それは、毎年冬になる前あたりに行われる妙な習慣でした。その頃になると、ある特定の1日だけ、一切家から出られないのだそうです。そして、家の玄関には家族の人数分のロウソクが立てられるのだそうです。
ただし、火は付けないのだそうです。そして、村のお寺の鐘が鳴ったら一気にロウソクに火を付け、蝋が溶けるまで家族でそれを見守るのだそうです。ある年の冬の最初の頃、ある事件が起きました。
その決まりを破ってその日のうちに家から出てしまった人がいたのだそうです。その人は、その年の夏に引っ越してきた人で、あまり村に馴染めていなかったのだそうです。その人は習慣について聞いていたはずですが、それを無視して出かけてしまったのだそうです。
父の友人で、雑貨屋の息子だった人から、その人がその日は閉めている店までやって来たのを聞いたそうです。次の日、その人は村からいなくなっていたそうです。そして、彼が住んでいた家は窓ガラスが全て割れ、家中泥だらけになっていたそうです。その他にも、家の周りには灰のようなものが円形に撒かれていたのだとか。その異様な光景を、村人たちは恐ろしいものを見るかのように怯えながら見ていたそうです。
その日もまた同じ風習が行われました。と言っても、その日の夜にロウソクを立てて家から出ないというものに変更されていましたが。
そして、父は2階の窓から妙な光景を見たのだそうです。家の前の道を、青白い火の玉がユラユラ揺れながら通り過ぎていったのを。
今まで、そのような光景は見たことがなかったそうです。そして、次の日の朝、そのことを両親に話すと、父親(私にとって祖父にあたる人物)は急にどこかに走っていったそうです。その次の年から、その妙な風習はなくなってしまったのだそうです。
そして、あの日にいなくなった人物は二度と村には戻らなかったそうです。