【死者の声】雪の中に混じって降る『雪様の風文』

昔、聞いた話。舞い落ちる雪の粒の中に、極くまれに、木の葉型のものがある。それを風文と言う。風文は、人肌に触れ、融ける瞬間、声になる。それは、山で遭難した人の今際のきわの言葉。はからずも死者となり、魂は黄泉路を、身は山路に留まらざるを得なくなった者を、雪様が憐れみ、近しい者に届けてくれる便りだ。

雪様の姿は千差万別。ただ、いつも足元に白い仔兎が遊んでいるらしい。それで、風文を貰った人は、かぼちゃ程の小さな祠を作り、中に小さな雪兎を祀る。お供えは、熊笹の上、胡桃の殻の片割れにお団子、もう半分にお酒を上げる。

話してくれた夫婦は、ご主人のオーバーの袖口に付いた風文から、確かに息子の声を聞いたと言う。
“ごめん、春にはきっと帰る”
その言葉どおり、翌年の春の終わりに、彼は山から帰って来た。以来、風文は来ないが、息子の命日には、庭に小兎のちょこなんと納まった祠が作られる。

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