箱根山中の宿に泊まった時の話。宿は山の中腹にあり、露天風呂は山の斜面にせり出したような造りになっていました。斜面の下には川が流れています。山奥特有の急流ですが、少し河原のような空間があり、川辺に立てるようになっていました。深夜に露天風呂に入っていた時の事です。
一緒に行った友人と「夜の川は怖いねー」なんて言いながら、下の川を見ていました。特に明かりもありませんから、川の流れは漆黒で、ザーザーという音だけが聞こえます。かろうじて河原の辺りまでは、温泉の光が届き、河原だと分かります。温泉に浸かりながらボンヤリと川を見ていた時、ふと気づきました。川の辺に真っ黒い人が居るのです。輪郭はふっくらしていて、子供のようでした。明かりひとつない深夜の河原に子供がいるなんて、どう考えてもおかしいです。それは、川の闇と同じく、真っ黒なモノが輪郭を作っている感じです。
友人に教えようと、一瞬目を離したすきに子供は消えていました。なんとなく、「河童」を見たかなーと思いましたが、河童のコミカルなイメージとは遠く、暗くておっかないモノだったと記憶しています。