友人の話。彼は学生の頃、オーストラリアへ留学していたという。現地ではバイトで、日本人観光客相手のガイドの手助けをしていたそうだ。
ある日、乗っていた車が故障し、丘陵地帯で立ち往生してしまった。ガイドと一緒に調子の悪いエンジンと格闘していると「ブーッ、ブーッ!」という奇妙な声が、藪の中から聞こえてきた。何かの唸り声のようだ。やがて藪を分けて声の主が姿を現した。
黒い体毛を持った大きな動物が、繁みから頭だけを覗かせていた。山羊に似ていたが、不気味なことに目は一つしかついていなかった。そいつは妙に人間くさく口を歪めてニヤリと笑い、姿を消したのだそうだ。
我に返ったガイドと彼は大急ぎで修理を始める。何とか応急処置を済ませ車を出した後、ガイドは低い声で教えてくれた。
「あれは恐らく、バニープと呼ばれる化け物だ。人を取って喰らうと言われている。俺たちは運が良かった。」
彼はその後、奥地へ踏み込むツアーには参加しないことにしたのだという。