友人から聞いた山の怪異。2年前のこと、友人が東京から新潟まで原付で単独旅行をしたそうだ。道中、山奥に差し掛かった所で夜がとっぷりふけた。近くに泊まれるような旅籠も民家もない。仕方なく友人は近くの崖にあった横穴に身を寄せることにしたそうな。
横穴といっても木の枠組み構造があり、あきらかに人工物だったという。山奥のそんな場所に泊まるなんて、と思うだろうが友人は豪胆だった。持参していた迷彩布を入り口に掛け、寝袋にはいるとすぐ寝入ったそうな。
どれくらいたったか、ふと表からなにやら歌声がきこえてきた。眠い目をこすり時間を見ると夜中の2時過ぎ。なんだぁ?とおもって聞き耳を立てると、歌は童謡だったという。歌詞は手まり歌のように思えたそうだ。歌は泊り込んでいる横穴の上から聴こえてきている。
ここで友人はすこしぞくりとしたそうだ。しかし、眠り眼で考えもまとまらず、また寝入ったという。するとややあって今度は歌が移動してきた。どんどん降りて来てるように聴こえた。自分と関わりないところでやってるならまだしも、近づいてくるとはなにか?少々怒り気味になったと友人は言った。さすが豪胆者の意見だと思う。怒ろうがなんだろうが、歌はどんどん近づいてくる。
近づいてくるにつれて、これは山の怪異の類であると思った友人は、凄みを効かせるため「寄らば切るぞう」と一言叫んだという。すると歌はぴたり、と止んだのだそうな。友人はそのまま朝まで無事に寝る事が出来たという。