友人の話。里山を歩いていた時のこと。少し奥に入ったところで、小さな集落跡を見つけた。十に満たない家屋は、一つを残してすべて崩れ落ちていた。おっかなびっくり中を探索してみる。畳床の落ちた和室の片隅に、一つだけ小奇麗な小箱を見つけた。中に入っていたのは、多種多様なメンコだった。厚紙を重ね蝋で閉じた、手作りのしっかりとした物だったそうだ。
外に出て、そのメンコを使ってみた。ピシャリ! ピシャリ!静かな廃村の中に、メンコを叩きつける音だけが響く。ありし日の情景が偲ばれて、ひどく物哀しい気持ちになった。メンコを廃屋に戻し、帰路に着いた。 その時になって、彼はメンコに触れたことを後悔したという。彼のすぐ後ろから、ピシャリ!ピシャリ!という音がつけて来たのだ。振り向いても何も見えず、だが音だけは着実に後をついて来る。まるでどこかの子供が、彼の背後でメンコ遊びをしているかのように。
麓に下りて大きな道に出ると、音はようやくついて来るのを止め、夕暮れの山の中へと引き返していったそうだ。