夕方、かくれんぼうをして遊んでいると、かくれ座頭というじいさんが出てきて、『かくれ里』という、誰にも入れない世界に連れていくという。それがどこにあるか、誰にも分からなかった。
ある日、高尾山を歩いていた二人の男が、山の北側に一つの大きな穴があいているのを発見した。穴の深さはどのくらいあるのか分からなかった。 と、覗いていた一人の男が、誤ってこの穴の中に落ち込んでしまった。
一緒にいた友達がひどく心配して「さてさて、大変なことになってしまった。たぶん命はなかろうが、もし生きていたら、さぞ食べ物に困るだろう。」と、食べ物を穴の中に投げ込んでやった。
穴に落ち込んだ男は無事であった。男は上から投げ落とされた食べ物を拾って、穴の中を先へ先へと歩いていった。 はじめは真っ暗だったが十日あまりも、根気よく歩き続けていると、急に辺りが明るくなった。見ると、一人のじいさんが寝ている。 その男は空腹だったので「何か、口に入れるものはないでしょうか。」と、尋ねてみた。すると木の根のところを指さしながら「それを飲んだらよかろう。」と言った。そこには竹筒があって、白い液が入っていた。それを飲むとたちまちからだや心がさわやかになって気力が満ちてきた。
気が付くと、周りには、さわやかに鳥が鳴き、いろいろな果物がなっていた。
「お前はここにとどまる気かね。」
「いいえ、僕、家に帰りたいです。」というと、「それでは、ここから西へ行くと一つの井戸がある。その井戸の中に飛び込んで見なさい。」と教えてくれた。 その男は西へ行き、見つけた井戸に飛び込んだ。井戸の底には一本の道が続いていた。男は道ばたにあるものを食べながら歩き続けた。そして半年ぶりに高尾山の中腹に出た。山を下り、町の中へ入った頃には、もう夕方だった。町の中では子供がかくれんぼうをしていた。と、物陰に、あの穴の別天地で会った老人が隠れている。そして、子供が、そこに隠れに来るのをじっと待っているようだった。男は疲れていたのでそのまま家へ帰った。
次の日の朝、子供が一人いなくなったと町中が大騒ぎしていた。男は、初めてあの老人が『かくれ座頭』だったということが分かった。 男は、町の人を連れて高尾山の穴を探してみたが、穴はどこにもなかった。