町外れの山に、かつて小さな火葬場があった。彼はそこで働いていたらしい。祭りの打ち上げで一緒になった際、そこでの話を色々聞かせてくれた。
「怖そうな現場ですね。とても私には務まりそうもないです」
そう言う私に、爺さんが答えて曰く。
「いや仕事といっても、実際は火の番くらいなもんだし難しくはない。 偉いさんから酒の差し入れもあったし、慣れたら別に怖くもないさ」
その台詞の後、思い出したようにポツリと付け加える。
「ただ時々キモトリが出おってな、あれは怖いというか不気味だった」
人を焼いていると偶に、周りの木々の中に変な小動物が出ることがあった。それは膝を抱えた猿であったり、後ろ足で立ち上がった兎であったり、枝上に丸くなった猫であったりした。それらのどこが変かというと、皆一様に顔が無いのだという。本来顔があるべき部位が、真っ黒に塗り潰されて見えるのだと。番所から外へ出て確かめると何もいない。しかし、小屋に帰るとやはり見える。暗い森影の中から、こちらをじっと見ている。
「先達は、それをキモトリって呼んどった。何かが獣ン振りして人の魂を狙っとるんだろう、そう聞かされたよ。まぁ気持ち悪いだけで実害は無かったから、無視しとったけどな」
今はもうその火葬場も無くなっている。
「キモトリがどうなったかって? さてなァ、儂らと同じく山を下りたんかもしれないなァ」
爺さんはそう笑って、注がれた酒を飲み干した。