その頃いろんな事に嫌気がさした爺さんは、会社を休み山に登った。四時間位登り、少し下界を眺められる様な所で休憩をとった。おにぎりを頬張りながら美しい展望を眺め、その景色に癒されながら、ふと水筒に手を伸ばした。
無い…後ろを振り替えると、自分の座っていた所から10m位先にちょこんと立っていた。首を捻ながら水筒を持ち上げると妙に軽い。試しに降って見ても液体の音がしない。がっかりしながらさっきまで座っていた所に戻ると、今度は残りのおにぎりが無い。
余りの事に言葉を失っていると後ろからクスリと子供の笑い声が聞こえた。振り替えってみると、ちょうど狐の尻尾が林の中に消えていくのが見えた。もう行こう…と思い荷物を片付けようとしたらおにぎりの容器の中にこの時期には珍しい山菜が沢山入っていた。余りの量の少し後ろめたい気持ちになったが、麦茶とおにぎりのお礼として受取りその場を後にした。
今でも爺さんは「おにぎりと麦茶だけで、あの量の山菜を貰うのには気が引けた」と目を細めて語る。