昔から、電話が苦手なんだ。多分子供のころ、親戚が死んだって連絡が夜中にかかって来た事があるからだと思う。呼び出し音が響くと、毎回ゾクッと嫌な予感がするんだ。また、何か悪い知らせなんじゃないかって。
俺はその時、休日だったから録画した映画をボーっと見てたんだよ。昼飯食ったちょっと後だったな。それで、まぁちょっとウトウトし始めたら電話が鳴ってさ。いつも通り嫌な予感を抱きつつ、電話に出たんだよ。
「はい、もしもし、××です」
眠りかけてたのを邪魔されたし、多分ちょっと不機嫌だったと思う。時計を見たら午後2時25分。
電話の相手は男の声だった。その電話は、ただの宅配便の連絡だった。近くまで来てますので、これからうかがってもよろしいでしょうか、って内容だった。
「ええ、大丈夫です」
先日留守にしてて荷物受け取り損ねて、再配達を頼んでたからそれだと思った。
「今家にいますんで、はい、来て下さい」
それでは、って言って電話は切れた。夏でパン一だったから、ズボンちゃんと履かなきゃな、なんて考えつつ受話器をおくとすぐ、玄関のベルが鳴った。早すぎる。俺の家はマンションの7階で、下に車停めて電話かけてきたとしても登ってくるのに一分はかかる。なんか嫌な予感がした。霊感とかはないし、死んだらそれっきりだと考えてるけど、まぁオカルト話とかは好きでさ。お、とうとう俺もオカルト体験かな、なんてなんか冷静な所もあってね。
受話器持ったまま、ソファにかけてあったジーンズ引っかけて、インターホンをとった。さっきの男の声で、宅配です、っていうから「あ、はい。今出ます」って答えて、もし強盗かなんかだったら嫌だし、玄関のゴルフクラブの位置を確認した。いざとなったら、って考えて。ドアの覗き穴から外の様子をうかがったら、普通に宅配の人がいた。アマゾンのダンボール箱持ってる、制服で帽子かぶった人。うつむいて、受取証?あの判子押すヤツとかチェックしてる。なんか拍子抜けして、顔を扉から離して、チェーン外して、鍵開けた。扉開けて、荷物受け取って、判子押して、まぁいつも通りだ。鍵閉めて、チェーンかけて、ソファに荷物投げて、腰かけた。
映画を巻き戻さないとなーって考えて、コントローラー載せてる机に目をやった。受話器がない。さっき、受話器を戻そうとしてベルが鳴って、どうしたっけ?玄関から電話の呼び出し音が聞こえた。不安になってきた。日差しは強いけど、クーラーかけてたから、ちょっと寒かった。多分荷物受け取る時に、無意識に置いたんだろうと思いながら玄関に戻った。靴箱の上に受話器はあって、ピロピロ鳴ってた。こんな短時間のうちに立て続けに電話ってのも珍しい。リビングに戻りながら、手にとって、外線押して、耳にあてた。
「もしもし」
「はい、もしもし、××です」
「は?」
それは俺の名字だ。
「ええ、大丈夫です」
「え、ちょっともしもし?」
電話の向こうで、映画の音が聞こえてる。なんかヤバい。
「今家にいますんで、はい、来て下さい」
「いえ、ちょっと……」
電話の中と、目の前のモニターで同じ映画の、違うセリフが流れてる。玄関のベルが鳴った。受話器から耳を離して、モニターを見たら、電話の中で聞こえてたのと同じシーン。インターホンに出たら、宅配便だって男の声。あれ、と思って部屋を見るけど、さっき置いたダンボール箱が見当たらない。
「あ、はい。今出ます」
玄関に行って、さっきと同じように荷物を受け取った。どう考えても意味わからない。時計を見たら午後2時27分。
受話器を戻して、映画を巻き戻した。映画のシーンで、たった時間を逆算しようと思ったんだ。最初に電話かかって来た時から、荷物受け取ってソファに戻るまでで大体二分半。そこから、二回目に荷物受け取ってソファに戻るまでが二分15秒。荷物は、ちょっとビビりながら開けたけど、ちゃんと自分が注文したスリッパだった。なんだったのか、結局良く分らない。