今から16年程前の小学四年生の頃の話。当時は西日本のとある新興住宅街に住んでいた。元々山地だったのを切り開いて住宅街にしてたので、街から自転車で20分も走れば周りの山々に着くんだ。だけど当時は山で遊ぶなんて事はせず、みんな公園とかで遊んでた。あの日以外は…
あの日はちょうど土曜日で授業も昼までだった。当時すごく仲の良いMって奴がいたんだけど、そいつがエアーガンを買ってもらったらしい。
M「今日学校昼までやから家で飯食った後エアーガン撃ちに山いこうぜ」
俺「いいな!狩りしようぜ」
学校終わってソッコー家でカーチャンが作ってくれた焼飯食って、待ち合わせ場所の公園に自転車こいで出かけた。先にMが着いていたみたいでニヤニヤして待っていた。
M「これスゲーやろ。18禁のやつやで」
親に10禁のエアーガンだと嘘ついて18禁の高威力の方を買ってもらったらしい。
俺「早く山行って撃ちまくろうぜ」
さっそく自転車に乗って住宅街を抜けて山に向かう。街を抜けたら本当に急にド田舎になる。途中で適当に山に向かう小道に入ってしばらく走る。もうこの時点で周りは山々なんだけどさらに走る。途中で民家が一軒あったので、そこを目印に自転車を留め徒歩で山に入っていった。エアーガンで遊んでたら大人に怒られるかもしれないから15分くらいは山奥目指して獣道を歩いたかな。
そこで1時間くらい、葉っぱとか木を撃ちまくった。夢中になって遊んでると急に「クモツ」って大人の声が聞こえた。俺もMも「?」ってなって周りをキョロキョロ見渡した。すると今度は「あっあっあっあっあっあっあっあっあっあっあっあっあっ」って声が聞こえた。二人共その声のする方に目を向けると、赤い猿がいた。猿と言っても小柄な人間のおっさんくらいデカイし、手が長かった。しかも赤毛で、心なしか顔も人間のおっさんみたいだった。その猿が俺達が来た道の10メートルほど前の木の途中にしがみついてこっちを見ていた。はじめはふたりとも全く危機感0だったけど、次の瞬間その赤猿がニマァっと笑った。完全に悪意のある笑顔だった。その瞬間、全身の五感で危険を感じた。Mも同じだったと思う。それほど気味悪く悪意のある笑顔だった。
来た道は猿がいて通れないから、横の斜面を下に向かってMと全力疾走した。何度もコケたけど全力で逃げた。「あっあっあっあっ」って声がずっと着いてくるんだ。後ろを見ると木と木を猿みたいにつたって着いてくる。いや猿なんだけど不気味すぎて猿とは思えなかった。よくわからないが猿はその気になれば俺たちをすぐに捕まえれたと思う。追いかけるというより着いてくるという感じだった。俺とMは「ウワァァッーーー!」と絶叫しながら逃げまくった。そして斜面を降りきった所で少し小さめの川があった。少しためらったけど、まだあの声が聞こえているから思い切って川を渡った。当時の俺らでも膝くらいまでしか水につからなかったから、水位は低い川だったと思う。そして川を渡りきった所であの声が急に止んだんだ。俺とMは逃げ切れたか?と思ったが、川の向こう岸に猿が立っていた。しかもあの不気味な笑顔ではなく、今度は思いっきり俺たちを睨んでた。悪意というか殺意の目で睨んでた。俺達はもう肺が破れそうなくらい息切れしていて「ハァハァ」言いながら猿をしばらく見ていた。
M「アイツ、もしかしてコッチ来られへんのちゃう?」
俺「わからへんけど多分そんな感じやね」
試しに俺達は奥へと足を運ぼうとした瞬間「ぎゃあああああああああああああ!!!」と猿が憎悪を込めたような雄叫びを上げた。俺達はかなりその絶叫にビビったけど、同時にやっぱりコッチに来れないんだと確信した。
とりあえず猿から離れようと奥へ入ったけど、行き過ぎると今度は迷ってしまうと思い、5分ほど奥へ進んでから腰を下ろした。
M「どないする?なんやねんアイツ…」
俺「さぁ…ちょっと待ってみて、あの猿があきらめてからダッシュで戻ろうか」
M「ちょっとってどれくらい?絶対まだあっこおるやろ、あの猿…」
ってな事で色々話し合った結果、一日待ってみることにした。小学生が親に黙って一日帰らないというのが、どれほど勇気がいる選択かみんなもわかると思う。それほど猿にビビっていた。一日待つとkメタはいいものの、辺りが暗くなっていくにつれ、どんどん恐怖心がふくらんでいった。小学生二人だけで山で夜を明かすなんて怖くないはずがない。ましてやあの猿に追い掛け回された後にだ。あの猿は川を渡れないなんて俺達の思い込みかもしれない。またすぐ近くであの「あっあっあっあっ」という声が聞こえたらと思うと怖くて仕方がなかった。
気を紛らわそうと、二人で良くしゃべっていた。他の友達の事や、先生の悪口や、好きな女子を暴露しあったりもした。もちろん親の話も。
M「帰ったら絶対オトンとオカンにメチャメチャ怒られるわぁー嫌やなぁ」
俺「お前なんかエエやんけ!俺のオトン怒ったらどんなけ怖い思ってんねん!」
M「お前のオトン確かに最強やもんな、むしろここに来て欲しいわ」
俺の親父は今現在、ある空手流派の首席師範をしている。現役の時は組手の全国大会でもあっさり優勝してしまうほどの猛者。試割用じゃない工業用のコンクリートブロックを素手で叩き割るほどの狂人だ。あまり関係ないのでここでははぶくが、人間離れした数々の武勇伝ありという人物。地域などを西日本と大まかに書いているのは、見る人が見ればすぐに親父が誰の事か特定出来てしまうほど、空手界では有名人だからだ。実際この話も見る人が見ればわかってしまうと思う。
話がそれたけど、こんな感じでお互い一睡もせず夜を明かした。てか怖くてとてもじゃないが寝れなかった。
俺「だいぶ明るなってきたな、何時やろ今…もういくらなんでも猿もあきらめたやろ」
M「どやろか?一緒にそぉ~っと見に行こ」
そして二人で静かに川まで歩いて行った。川に着いて周りを見渡しても猿の気配はない。
M「あの斜面をずっと登ってあの道に出たら左やな」
俺「なるべく静かにダッシュで行こう」
そう言って俺達は川を渡った。渡りきった所で急に昨日の恐怖がよみがえる。ここはもうあの猿のテリトリーなわけだし。でも怖がってる場合じゃないと全力で斜面を登った。最初に静かにダッシュとか言ってたが、おかまいなしに全力でダッシュした。そして最初に猿と出会った所あたりにまでたどり着いた。そこから来た道を猛ダッシュ。この時がなぜか一番怖かったのを覚えている。
そして猿と出会うことなく、あの声を聞くことなく最初の民家が見えてきた。そこで安心したのか俺達は「うわぁぁぁああ!」と叫びながら民家の庭というか畑がある敷地に飛び込んだ。そしたら農機をいじっていたおじいちゃんがいた。「な、なんやお前ら!?どこの子や!?」とびっくりしていた。俺達は今までの出来事を説明したが、興奮と息切れで上手く説明できなかったと思う。実際じいさんも「何を言っとんねんコイツら」的な顔をしていた。「よぅわからんけど親御さんも心配してはるやろ。とりあえずうちで家の人に電話しぃ」という事で、じいさんちへ上がらせてもらった。そこでお茶とお菓子食べさしてもらったんだけど、昨日の焼き飯以来なにも食べてなかったから死ぬ程うまかった。
そんで少し落ち着いたから、俺ん家に電話させてもらった。そしたら親父が電話に出たんだけど
俺「もしもし、おとうさん?僕やけどな…」
親父「〇〇(俺)か?どんなけ心配した思ってんねん…M君も一緒か?」
俺「うん…」ここで号泣してしまった。
怒られると思っていたが逆に優しかった親父と、猿から開放された安堵感で一気にワーワー泣いてしまった。Mも俺につられたのかワーワー泣き出した。見かねたじいさんが俺と電話をかわって親父としゃべってくれた。
爺「〇〇というものです。今朝、俺くんとMくんがうちに逃げ込んできまして…はい…なんや猿のバケモンに追われてた言うてるんですが…」
一通り説明してくれていた。電話が終わった後、俺の親父とMの親父が一緒に迎えに来てくれると教えてくれた。そしてしばらくじいちゃんと色々話をしていたら「あっあっあっあっあっあっあっあっあっあっあっあっあっ」と家の外からあの声が聞こえて来た。俺とMはもう半泣きで震えまくったよ。もちろんじいちゃんにも聞こえていて「あれか?確かに動物の声やないな、長い事ここに住んでるけど初めて聞いたわ。ここでジッとしとき、大丈夫やからな」そう言うとじいちゃん違う部屋から猟銃を持ってきた。エアーガンみたいなオモチャじゃなく本物の銃だ。
爺「鹿とかイノシシ用やけど、どんな生き物でもコイツで殺せるから安心しぃ」
それでもあの声が聞こえてて安心するというか、とにかく怖かった。
しばらくすると外から車の音が聞こえた。親父だ。エンジンの音がじいちゃん家の前で止まり、車のドアを開け閉めする音を確認して俺達は一目散に玄関を飛び出し、親父達のもとへ走って行った。
俺「おとうさん!早く行こ!あの猿がすぐそこにおんねんっ!」
親父「アホか!まず〇〇(爺)さんにお礼言わんかい!」
急かす俺とMを叱っているときに「ほきゃやあぁあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああああ!!!!!!!!!」その場にいた全員が固まった。20メートル程山側の先に、あの化け猿が立っていた。俺とMは「うわああああああ!!」と絶叫した。親父達も目を見開き信じられないという顔をしていた。
俺はじいちゃんに早くあの猿を撃ってくれと思い、玄関先に立っているじいちゃんを見た。でもじいちゃんは銃を持って出てきていなかった。そりゃあ猟銃抱えたまま親父達の前に出たら何て思われるかわかったもんじゃないんだろうけど、使えないジジイだと心の底から思った。そしてそのとき猿がついにコッチに目掛け四足で猛ダッシュしてきた。俺はもう大パニックになって腰を抜かした。そのとき親父が猿目掛け突っ込んでいき、猿の顔面に思いっきり膝蹴りをぶちかましていた。猿も後ろにぶっ倒れそうになるのを持ちこたけど、同時に親父の正拳が猿の顔面にめり込んだ。あのコンクリートブロックをも粉砕する正拳をだ。この時点で猿は完全に戦意をなくしてたと思う。知らんけど。親父の攻撃はまだ止まなかった。それでも倒れない猿に渾身の前蹴りを猿の腹に叩き込んだ。あのサンドバックすら跳ね上がる親父の蹴りをだ。そのまま間髪入れずに足を払い、猿を崩してこかせたと同時に猿の横っ面を踏み抜いた。あの床板すらブチぬく親父の踏み込みを。そこで親父の攻撃は止まった。猿はピクリとも動かなくなっていた。みんな無言だった。静寂を打ち消すかのようにMの親父がしゃべりだした。
Mのお父さん「さ、さっすがですね~!猿にも驚きましたが、いや~すごいな~」
親父「この猿なんなんでしょうね、一体…」
爺「あんな猿初めて見ましたわ。そもそもこの山に猿なんかいてませんねんけどな」
大人たちで話し始めていた。少し目を離した瞬間、猿の死体?が消えていた。大人たちも不思議がっていたけど、逃げたんだろう…と無理矢理納得しようとしていた。ただ本当にあの一瞬で逃げれたのかどうか疑問に思う。ただ親父達は帰りの車の中で「もうこの話はするな。さっさと忘れた方がええやろ」と言っていた。まぁ無事に帰れただけで本当に良かったと思う。
色んな大人達が俺とMを探し回っていたそうで、親父以外からはこっひどく叱られました。Mはあのあと親父が教える空手道場に入門して、今では空手の指導員をしています。あと、この話を見て思い当たる関係者の方がいれば伏せておいて下さい。お願いします。
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kxODEzMTI
親父さんの方が妖怪だわ😓