樹海で修道女に憑依された先輩の話

去年の9月…だからちょうど1年ぐらい前の話。正社員の内定もらって専門も無事卒業できることが決まった俺は、バイトしてた弁当屋をやめることになった。そこで最後の思い出に、一番仲の良かった2こ上の先輩と、車でちょっとドライブがてら遠出してみようってなったんだ。

朝8時ぐらいに先輩の運転で出発。だいたい2時間弱で富士山のふもとあたりまで来た。特にアテのないドライブ旅行だったんで、二人で何するわけでもなく富士山眺めながら車で走ってたんよ。11時ちょい過ぎぐらいになってそろそろ飯にするかってことで、観光客向けの飯屋に入ってそば食って、お土産見たり駐車場で煙草吸ったりしてたのね。さてどうしたもんかと思って、どちらともなしに「せっかくこんなとこまで来たんだし、富士樹海行ってみない」って話になって。もともと俺も先輩もホラービデオとか喜んで観れる性格だったんで、行ってみることにした。

30分くらい車走らせたとこで樹海を背にした駐車スペースを見付けて、先輩を先頭にいざ出陣。二人とも怖いものに興味はあるけど基本的にビビりなんで、ちょっと40、50m入ったらすぐ出て来る予定だった。 入ってみると別に嫌な感じとかはしなかったものの、歩きにくいのなんのって。駐車場に停めた車が段々見えなくなってきたぐらいで、「そろそろ戻ろっか?」って先輩に声かけたの。でも先輩無言で。なんかどんどん奥に行こうとするの。最初ふざけてんだろうなって思って笑いながら着いて行ってたんだけど、いよいよ帰るのがめんどくさそうな距離まで来たから「〇〇さん(先輩の名前)、もういいでしょ?」って引き止めようとしたの。でもなんかおかしい。もともとあんまり喋る人じゃないけど、さっきから無言すぎる。強引に手を掴んで先輩の顔見たら、ギョッとした。目がロンパってんの(テリー伊東みたいな、両目が別々の方を向いてる状態ね)。もちろん普段はこんなじゃない。

あっちょっとこれ…ヤバい?と思って先輩の肩をガクンガクンして起こそうとしたんだけど、やっと口開いたと思ったら「〇〇様に〇〇〇しなけりゃならない」(〇〇のとこはなんて言ったか分からなかった)とか口走って。先輩の両肩を強引に掴んで来た道を必死で戻り始めた。と、戻る途中左の方、50mぐらい?先のところに、なんか黒い修道服みたいなの来た女性(多分女性)が前斜め45度を向いて立ってんのに気付いて(こちらからは女性の左頬が少し見える状態)。遠かったのと気が動転してたからもしかしたらただの看板か何かを見間違えた可能性も大いにあるんだけど、それでまためちゃくちゃ怖くなって。俺はなにも見て無いなにも見て無いって自分に言い聞かせながら本当に必死に車まで先輩連れて戻った。先輩はまだラリってたから助手席に押し込んで、運転は俺。もちろん後ろを振り返ったりバックミラーで確認したりする勇気なんてなくてそりゃもう必死にキーを回したさ。1回でエンジンがかかったから多少冷静になれたものの、これでエンストしたりしてたらもう舌噛み切って死のうとか考えてた。

そっからは大声で一人で歌を歌いながら必死で大きい通りまでなりふり構わず飛ばした。後ろから着いてくるんじゃないかって思いがまだ大分あったから。事故ったら事故ったで人がたくさん来てくれるだろうとか迷惑なこと考えてた。夕方6時ぐらいに先輩ん家に着いたら、ハッと先輩のこと思い出して先輩の方見てみた。なんか普通に寝てる感じだったから肩叩いて「〇〇さん着いたよ」って起こしてみた。本当は先輩になんか取り憑いてんじゃないかと思ってこのまま車に先輩残して帰りたかったけど。揺さぶってみたら「ん?あぁんん!」とかって普通に伸びして起きやがったの。「大丈夫すか」って声掛けたら、「あれ?俺ん家?なんで?」ってキョトンとしてる。「昼メシ食ったあと確か車で昼寝しちゃったんだよな俺」とかワケのわかんないこと言う先輩に対し、「えっ二人で樹海行ったじゃん」って切り出したら、「はぁ?樹海?行ってないよ」と。えっだって飯屋から樹海まで運転したの先輩なんですけど…

今思えばくねくねかなんかの類いだったのかなあの修道服の女は。とにかく帰って来れて本当に良かった。先輩本人にはラリってたこと話してない。

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