もう25年ほど前になりますが、私が山を始めた頃の話を聞いて下さい。混雑を避けて、父と二人で8月の終わりに白馬岳に行った時のことです。山頂で一泊し、白馬大池から栂池へ下山するコースをとりました。山頂付近こそ多くの人でしたが、乗鞍や大池辺りでは、もう殆ど人と会うことも少ないほどでした。
最終バスを栂池自然園で乗ることにしていた私達は、結構のんびりと歩いておりました。当時ゴンドラはまだなかったので、日に数本のバスがありました。そして、乗鞍岳をすこし下った雪渓で休憩をとることにしたのですが、なぜか、そこには軽装の10才位の子供達が10人程いて、鬼ごっこをしていたのです。辺りには、大人は全くいなくて子供達だけで遊んでいるのです。親たちは、後から登ってくるのか、下ってくるのかな。と不思議に 思いましたが、とりあえず、私達は、雪渓の下の方でお茶を飲んでいました。
時間が結構ありましたので1時間ほど休んで下りようとしましたが、子供達は、何時の間にかいなくなっていました。下山するには、私達の前を通る筈ですしが、私達の前は誰一人、登る人も下りる人も通っていません。子供達だけで、夕方近くに登って行くことも考えられませんし、荷物も何もなかったようです。父と狐につままれたような気持ちでその場を後にしました。結局その後、バスの運転手さんに会うまでその子供や、保護者らしき人、登山者に会う事はありませんでした。
それから、いろいろ山に登りましたが、あんな不思議な体験はしたことがありません。一体 私達が見た子供はなんだったのでしょうか?ごく普通の子供達に見えたのですが、あんな場所に子供だけでもちろん行ける所ではないし、大人は全くいなかったのですから。長年、ずっと忘れられずにいる出来事でした。