宮崎県西臼杵郡日之影町の北、見立谷にお姫山と云う山がある。昔、隣の大分県南海部郡宇目村藤河内の老人が、ここで狼を連れた髪の長いお姫様が通るのを見たという。明治二十年頃のことらしい。山姫は狼のような鋭いおらび(叫び)方をして鳴くという。
傾山を中心とした山域には山姫と狼の話は多い。昭和元年の頃、宇目村木浦の人が山に入って夜撃ちの狩りをしていた折のこと、大切峠から天神原山にかけての篠竹の笹原の中で潜んでいたところ、急に目の前に十五、六才位の女の黒い影が現れ、その人に向かって立った。突然の恐怖に身動きも継ならず、銃を構えることも出来ずに息を殺していると、忽ちかき消すように消えたという。丁度明るい月夜のことで、黄色い篠竹の笹原が照り輝いていたために、その姿は有りありと今も目前にあるという。
また別のある人は、西の新百姓山で不思議なものに出会っている。十二、三才の子供ほどの大きさのもので、草の色に紛らわしい黄緑色をしたもので、人の背丈ほどの笹原の上を歩いて行ったと云う。日中の出来事で、50m先の木の株に座りながら見ていたが、まったくこちらには気付いていなかったと云う。