怒る山彦

小学生の時の不思議話。

毎年、両親のお盆休暇になると、四国の山奥にある母親の実家へ帰省していた。

ある時、付近の栗畑で遊んでいると、向かいの山の中腹でモゾモゾ動く人影のようなモノが見えた。
最初はお爺ちゃん達かと思い、兄と2人で大声で呼んでみたが、
動きが止まったように見えるだけで大した反応が無い。
しかし、子供心に山彦が面白いので、
「コッチ向けー」「ウア無視」「バーカ」とか言って、ひとしきり叫んでいた。

台詞のネタも尽きてダルくなり飽きてきた頃、
山彦になって返ってくる反響が凄い低音で「ウーンニャ……ダマーレ…xx(聞き取れない)」と、
よくあるヒーロー物の悪役よろしく聞こえてきた。
えーッ!?と兄と二人で顔を見合わせたが、怖いモノみたさで再び叫ぶと、
やはり重低音で「ウーンニャ……ダマーレxx」と返ってくる。

小一時間ほど何度やっても同じ結果。
案山子のような毛皮のような何かは、動いているのか止まっているのか、そもそもソイツが声の主かも定かではない。
山の中腹でギリギリ視認できる程度なのが何とも歯痒く、もっと近くに行こうという事になり突撃を敢行した。

途中に犬小屋風の木の囲いがあり、何故か中に居た猪が唸り声を上げて踊り出て来たので、
兄が俺を置いて一目散に逃げていってしまった。

この時は山彦の怪異よりも猪の特攻よりも、パニくった兄の形相の方が怖かった訳だが…
俺は突き飛ばされた拍子に岩で顎を切ってしまい、ほんの数mm程度の傷なのに漫画の冗談のように出血して、
一気に力が抜けて座り込んでしまった。
脳貧血だろうか、オマケに後で分かったのだが肩を脱臼していて、
姿勢を崩して寝転んだまま自力で起き上がれなくなった。
叫ぼうとするとアチコチ痛い。俺ピンチ

こうしていても埒が開かないので、痛みと相談しながら声を出そうと意を決して、
一撃でSOSに気がついてもらうべく「誰ーかー!」と叫んだ。
数瞬の後、間近で花火が上がったり、落雷した時の様な腹に響く振動が数回…と例の声。
寝転んでいるのでオカシイが、多分立っていても腰が抜けたと思う。
痛いので声には出し辛いが、神妙に心の中で『スミマセンもうバカにしません』的な事を連呼していた。

かれこれ3~4時間、放置プレイよろしく背面匍匐しかできずに芋虫のようにゴロゴロしていたら、
散歩コースから外れた犬2匹に引きずられながら今は亡き曾御爺ちゃんが登場して、助けて貰えた。

が、何より恐ろしかったのは、
帰ったら何事も無かったように、誰に知らせるでもなくオヤツを貰って一人で食べていた兄。

非怖な上変なオチですみません

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